体育館の床板の剥離による負傷事故の防止についての【通知】がありました。

先日ですが、消費者庁が行った体育館のフローリング材による負傷事故の調査報告がまとまりました。
調査及びメンテナンスを定期的に行っていく必要があるとの見解が示されていました。

スポーツ庁参事官様より事故の防止を周知し推進するように要請がありましたのでここに記載します。

体育館の床板の剥離による負傷事故の防止について(通知)

標記について,消費者庁の消費者安全調査委員会(以下「調査委員会」)では,消費者安全法第23条第1項の規定に基づき,体育館の床から剥離した床板による負傷事故について,平成27年度より事故等原因調査を進めてきたところですが,この度,調査委員会において事故等原因調査報告書(以下「報告書」)がとりまとめられ,消費者安全調査委員会委員長より文部科学大臣に対し意見が提出されました。
報告書によると,体育館の床板の一部が剥離し,腹部に突き刺さり重傷を負う等の事故が平成18年度から平成27年度までの間に7件確認されたこと,また,当該事故は新しい体育館でも発生していることから,同様の事故が発生するリスクはあらゆる体育館に存在するとされています。
体育館の床板が剥離する要因としては、清掃時等における想定以上の水分の吸収及びその乾燥の影響が考えられ,体育館の維持管理が非常に重要です。
このことから,体育館の所有者及び管理者におかれては,報告書を踏まえ,体育館の床板の剥離による負傷事故の防止対策をより一層推進するため,維持管理における下記の取組等を適切に実施するようお願いします。

目次

1 適切な清掃の実施(水拭き及びワックス掛けの禁止)

日常清掃及び特別清掃※1により,体育館の木製床を清潔に保つ。その際,水分の影響を最小限にする。
水拭き及びワックス掛けはフローリング等の不具合発生の観点からは,行うべきではないことなど,報告書を参考にして適切な清掃の方法を定め,書面にすることにより,実際に清掃を行う者に分かりやすく周知し,実施を徹底する。なお,やむを得ず体育館にワックスを使用する場合には,それに伴うフローリングへの水分の影響を最小限とするよう注意する。

※1 日常清掃では取りきれない汚れを除去するために数か月に一度行う清掃

2 日常点検・定期点検の実施,記録の保管及び速やかな応急処置

日常的,定期的に点検を行い,その実施した記録を保管する。報告書を参考にして点検記録表を作成し,点検項目及び方法について実際に点検を行う者に分かりやすく周知し,実施を徹底する。
フローリング等の不具合を発見した場合には,速やかに応急処置又は補修を行うほか,必要に応じて専門業者に相談して補修又は改修を行う。
また,事故が発生した場合に事故原因の事後的な検証を行うことができるよう,フローリング等の不具合を把握した場合には,写真を撮影する等の方法で不具合の内容を記録し,不具合の位置や箇所数とともに記録し保管する。
さらに,体育館ごとに,体育館の適切な維持管理についての責任者を定め,当該責任者に,点検の実施やフローリング等の不具合について責任を持って対応に当たらせる。

3 維持管理を外部委託する際の適切な仕様の設定

体育館の維持管理を外部に委託する場合には,上記1及び2について仕様書で定めるなどして,受託者に対し同様の対応を求める。また,受託者には体育施設管理士資格
※2を有する者がいることを条件とするなど,維持管理の質を保つ。

※2 体育施設管理士養成講習会(主催:公益財団法人日本体育施設協会及び独立行政法人日本スポーツ振興センター)で指定項目を受講し,試験に合格した者が取得できる資格

4 長期的な改修計画の策定,計画に基づく改修の実施及び補修・改修記録の保管

体育館の木製床の長期的な改修計画を策定するとともに,計画に基づいて体育館の木製床の改修を行う。また,継続的に記録を参照できるよう,補修・改修の記録を保管する。体育館を新築する際には,施工に関する情報並びに維持管理の方法及び改修時期の目安等の情報について,まとめた管理簿を作成して引渡すことを仕様書に定めるなど,設計者及び施工者に伝達させ,これを基に上記の改修計画を策定する。

5 施設利用時における注意事項の利用者への周知

報告書を参考にして施設利用時の注意事項を作成し,体育館の利用者の目に付く場所に掲示するなどして,利用者に対して分かりやすく伝える。

なお,今後,文部科学省及びスポーツ庁において,上記1から5までの取組状況を把握するために調査を行うこととしていますので,あらかじめお知らせします。

このことについて,都道府県教育委員会施設主管課及び都道府県施設主管課におかれては,所管の各学校、社会体育施設及びその他都道府県所管施設等へ周知するとともに,域内の市区町村教育委員会施設主管課及び市区町村施設主管課を通じ,市区町村教育員会及び市区町村所管の各学校,社会体育施設,その他市区町村所管施設及び民間スポーツ施設等への周知を図られるようお願いします。
また,都道府県私立学校担当課におかれては,所轄の私立学校(専修学校,各種学校を含む)に対して,周知するようお願いします。

報告書の要旨

消費者安全調査委員会では、体育館の床板の一部が剝離し、腹部に突き刺さり被災者が重傷を負った事故について、事故等原因調査の申出を受けた。
これをきっかけとして、消費者庁の事故情報データバンクに寄せられた事例及び報道情報を収集したところ、平成 18 年から平成 27 年までの間に申出を含めて同種又は類似の事故が7件発生していた。
この中には、木片が内臓に達した事例もあった。
消費者安全調査委員会は、「事故等原因調査等の対象の選定指針」(平成 24 年10 月3日消費者安全調査委員会決定)に基づき、次の要素を重視し、体育館の床板の剝離による負傷事故を事故等原因調査の対象として選定した。
(1)体育館は全国の学校又は公共施設に設置されており、児童から高齢者まで幅広い消費者の利用に供されていて「公共性」が高いこと。
(2)重傷事故が発生しており、「被害の程度」が重大であること。

<結論>

体育館の床板の剝離による負傷事故は、被災者が滑り込んだ際に発生していた。
被災者が床板の長手方向に滑り込んだこと、被災者の身体に刺さった木片はいずれも木材の繊維に沿って剝離していたことは、現地調査を行った全ての事故に共通していた。
床板の剝離の要因は、塗膜の損傷・摩耗による木製床の性能の劣化、床板自体の傷、割れ、段差、目隙などの不具合(以下、これらを総称して「床板の不具合」という。)が生じていたことにあると考えられたものの、事故前の床板の状態を示す記録が残されていないこと、事故直前の床板の状態が確認されていないことから、事故時点においてどのような床板の不具合が生じていたのかを確認することはできなかった。
しかしながら、事故の再発防止のためには、
(1)床板の不具合を生じさせないこと、
(2)床板の不具合が生じた場合には、適切に対処し、事故の発生を未然に防ぐこと、が必要である。
このような観点から、以下では、現地調査及びアンケート調査から判明した、床板の不具合を生じさせた要因及び事故の発生を未然に防ぐことができなかった要因について示す。

1 床板の不具合を生じさせた要因

床板の不具合を生じさせた要因として、木製床の使用に伴う劣化のみならず、設計・施工、維持管理及び利用の各段階における床板の過度な水分の吸収やその乾燥の影響(以下「水分の影響」という。)等が考えられる。
木製床の使用に伴う劣化について、事故が発生した体育館のうち、1か所(事例1)は、体育館全面にわたって割れ、段差、目隙などがみられた。
別の1か所(事例3)は、年間を通じて多目的に利用されており、利用時の力の作用などによって床板に不具合が生じる頻度も通常の体育館より多いことが推定され、実際、補修された跡が多数みられた。
2か所とも 20 年以上床の改修を行っていない体育館であった。
木製床の塗膜の耐用年数は 10 年程度であり、その間にポリウレタン樹脂塗料の重ね塗りを行ったり、10 年でサンダー掛け後の再塗装を行ったりするといった計画を立てて改修を行うことにより、木製床の初期の性能を維持することができるとされている。
このため、20 年以上塗装面の改修を行っていない場合には、塗膜の保護機能の劣化によって、床板の不具合が生じると考えられる。
一般に木材は周囲の温湿度の変化に応じて吸湿したり放湿したりし、それに伴って寸法も変化している。
このため、床板においても過度に吸放湿するような環境の下では、床板の変形が大きくなり、段差や割れなどの床板の不具合につながるといわれている。
床板の含水率が適切な範囲から逸脱する要因として、立地環境、空調、維持管理時の水拭き、ワックス掛けなど、様々な状況が考えられる。
事故が発生した1か所では、竣工当初、床面が湿気で濡れているような状態が生じており、その後事故発生までにバレーボール用ネットの支柱固定穴のずれが生じるといった、水分の影響によると考えられる木材の寸法の変化がみられた(事例2)。
また、ウレタン塗装によって強く固着されていた床板が水分の影響により変形し、隣り合う床板の長手方向の側面で亀裂が生じたと考えられる事例もあった(事例4)。
維持管理に関しても、水分を持ち込む水拭きやワックス掛けが行われている体育館がみられた。事故が発生した体育館のうち、水拭き及び洗浄が行われていた体育館が1か所(事例1)、ワックス掛けが行われていた体育館が2か所(事例1及び事例4)あった。
アンケート調査では、学校の体育館の 46%、公共の体育館の 42%でワックス掛けを行っているとの回答があった。

2 事故の発生を未然に防ぐことができなかった要因

事故が発生した体育館では、現地調査を行った4か所とも点検はなされていたが、事故を防ぐことができなかった。このことから、有効な点検が行われていなかった可能性が考えられる。
この点について、事故が発生した体育館からの聴き取り及びアンケート調査によると、日常点検の項目、方法、頻度は体育館ごとに異なっており、事故が発生した体育館のみならず、一般に、事故防止に有効な点検が知られていないと考えられる。
また、アンケート調査では、学校の体育館の4%、公共の体育館の 18%が日常点検も定期点検も行っていないとの回答であった。
一部の体育館については、そもそも点検の重要性自体が認識されていない可能性が考えられる。
さらに、アンケート調査において、床板の不具合を発見した際の対策に関連する意識や認識を尋ねる項目で、体育館の木製床の損傷等に起因する負傷事故の発生について、同様の事故が発生する懸念・危惧を感じ、対策を講じたいと思っているものの、対策の費用や体育館の利用に制限が生じることを懸念する状況がみられた。
このことから、床板の不具合を発見しても対策を講じることができない場合があると考えられる。

<意見>

文部科学大臣への意見

1 事故のリスク及び維持管理の重要性の周知

文部科学省は、体育館において安全にスポーツを行うことができるよう、体育館の床板の剝離による負傷事故が発生していること、あらゆる木製床の体育館において同様の事故が発生するリスクがあること及びこれらを利用者が知ることの重要性並びに体育館の維持管理の重要性及び方法について、本報告書を参考にして体育館の所有者及び管理者に対して周知徹底すべきである。

2 適切な維持管理の取組

文部科学省は、体育館の所有者に対して、次の(1)から(5)までの取組を行うよう求めるべきである。
また、文部科学省は、それらの取組状況を把握し、適切な維持管理が行われるようにすべきである。

(1)日常清掃及び特別清掃により、体育館の木製床を清潔に保つ。その際、水分の影響を最小限にする。
水拭き及びワックス掛けは、床板の不具合発生の観点からは行うべきではないことなどに留意した上、本報告書3.3.2及び6.1を参考にして適切
な清掃の方法を定め、書面にすることにより、実際に清掃を行う者に分かりやすく周知し、実施を徹底する。
なお、やむを得ず体育館にワックスを使用する場合には、それに伴う木製床への水分の影響を最小限とするよう注意する。

(2)日常的、定期的に点検を行い、実施した記録を保管する。本報告書3.3.2及び6.2を参考にして点検記録表を作成し、点検項目及び方法について実際に点検を行う者に分かりやすく周知し、実施を徹底する。
床板の不具合を発見した場合には、速やかに応急処置又は補修を行うほか、必要に応じて専門業者に相談して補修又は改修を行う。
また、事故が発生した場合に事故原因の事後的な検証を行うことができるよう、床板の不具合を把握した場合には、写真を撮影する等の方法で不具合の内容を記録し、不具合の位置や箇所数と共に記録し保管する。
さらに、体育館ごとに、体育館の適切な維持管理についての責任者を定め、当該責任者に、点検の実施や床板の不具合について責任を持って対応に当たらせる。

(3)体育館の維持管理を外部に委託する場合には、(1)及び(2)について仕様書において定めるなどして、受託者に対し同様の対応を求める。
また、受託者には体育施設管理士資格等を有する者がいることを条件とするなど、維持管理の質を保つ。

(4)体育館の利用状況に応じて木製床の長期的な改修計画を策定するとともに、改修計画に基づいて体育館の木製床の改修を行う。
また、継続的に記録を参照できるよう、補修・改修の記録を保管する。
体育館を新築する際には、施工に関する情報、維持管理の方法、改修時期の目安等の情報について、まとめた管理簿を作成して引き渡すことを仕様書において定めるなど、設計者及び施工者に確実に伝達させ、これを基に上記の改修計画を策定する。

(5)施設利用上の注意事項を作成し、体育館の利用者の目に付く場所に掲示するなどして、利用者に対して分かりやすく伝える。

3 消費者事故等の通知

文部科学省は、体育館の床板の剝離による負傷事故が発生した場合には、次の(1)及び(2)の対応を行うべきである。
(1)体育館の所有者又は管理者に対して、事故の発生した床板の写真の撮影、発生位置の記録を行い、情報提供に努めるよう求める。
(2)消費者庁に対して、消費者事故等の通知を行うとともに、(1)で収集した情報の提供を行う。

報告書

はじめに

消費者安全調査委員会 1
(以下「調査委員会」という。)は、消費者安全法に基づき、生命又は身体の被害に係る消費者事故等の原因及びその事故による被害発生の原因を究明し、同種又は類似の事故等の再発・拡大防止や被害の軽減のために講ずべき施策又は措置について、内閣総理大臣に対して勧告し、又は内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長に対して意見具申することを任務としている。
調査委員会の調査対象とし得る事故等は、運輸安全委員会が調査対象とする事故等を除く生命又は身体の被害に係る消費者事故等である。
ここには、食品、製品、施設、役務といった広い範囲の消費者に身近な消費生活上の事故等が含まれるが、調査委員会はこれらの中から生命身体被害の発生又は拡大の防止を図るために当該事故等の原因を究明することが必要であると認めるものを選定して、原因究明を行う。
調査委員会は選定した事故等について、事故等原因調査(以下「自ら調査」という。)を行う。
ただし、既に他の行政機関等が調査等を行っており、これらの調査等で必要な原因究明ができると考えられる場合には、調査委員会はその調査結果を活用することにより当該事故等の原因を究明する。
これを、「他の行政機関等による調査等の結果の評価(以下「評価」という。)」という。
この評価は、調査委員会が消費者の安全を確保するという見地から行うものであり、他の行政機関等が行う調査等とは、目的や視点が異なる場合がある。
このため、評価の結果、調査委員会が、消費者安全の確保の見地から当該事故等の原因を究明するために必要な事項について、更なる解明が必要であると判断する場合には、調査等に関する事務を担当する行政機関等に対し、原因の究明に関する意見を述べ、又は、調査委員会が、これら必要な事項を解明するため自ら調査を行う。
上記の自ら調査と評価を合わせて事故等原因調査等というが、その流れの概略は次のページの図のとおりである。

(1 消費者安全法(平成 21 年法律第 50 号)の改正により、平成 24 年 10 月1日に消費者庁に設置された。)

<参照条文>
○消費者安全法(平成 21 年法律第 50 号)〔抄〕
(事故等原因調査)
第 23 条 調査委員会は、生命身体事故等が発生した場合において、生命身体被害の発生又は拡大の防止(生命身体事故等による被害の拡大又は当該生命身体事故等と同種若しくは類似の生命身体事故等の発生の防止をいう。以下同じ。)を図るため当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明することが必要であると認めるときは、事故等原因調査を行うものとする。
ただし、当該生命身体事故等について、消費者安全の確保の見地から必要な事故等原因を究明することができると思料する他の行政機関等による調査等の結果を得た場合又は得ることが見込まれる場合においては、この限りでない。
2~5 (略)
(他の行政機関等による調査等の結果の評価等)
第 24 条 調査委員会は、生命身体事故等が発生した場合において、生命身体被害の発生又は拡大の防止を図るため当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明することが必要であると認める場合において、前条第一項ただし書に規定する他の行政機関等による調査等の結果を得たときは、その評価を行うものとする。
2 調査委員会は、前項の評価の結果、消費者安全の確保の見地から必要があると認めるときは、当該他の行政機関等による調査等に関する事務を所掌する行政機関の長に対し、当該生命身体事故等に係る事故等原因の究明に関し意見を述べることができる。
3 調査委員会は、第一項の評価の結果、更に調査委員会が消費者安全の確保の見地から当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明するために調査を行う必要があると認めるときは、事故等原因調査を行うものとする。
4 第一項の他の行政機関等による調査等に関する事務を所掌する行政機関の長は、当該他の行政機関等による調査等に関して調査委員会の意見を聴くことができる。

本報告書の本文中における記述に用いる用語の使い方は、次のとおりとする。

① 断定できる場合
・・・「認められる」
② 断定できないが、ほぼ間違いない場合
・・・「推定される」
③ 可能性が高い場合
・・・「考えられる」
④ 可能性がある場合
・・・「可能性が考えられる」
・・・「可能性があると考えられる」

1.事故の概要

1.1 事故事例

調査委員会では、体育館の床板の一部が剝離し、腹部に突き刺さり被災者が重傷を負った事故について、事故等原因調査の申出を受けた。
これをきっかけとして、消費者庁の事故情報データバンクに寄せられた事例及び報道情報を収集したところ、表1のとおり平成 18 年から平成 27 年までの間に申出を含めて同種又は類似の事故が7件発生していた。
この中には、木片が内臓に達した事例もあった。

表 1 体育館の床板の剝離による負傷事故の事例

発生年 竣工又は木製床の全面改修から事故発生までの年数 被災者の動き 負傷部位 入院日数
平成 18 年 16 年 バレーボール 胸部 1週間~10 日程度
平成 23 年 8年 バレーボール 胸部 7日間
平成 25 年 2年 バレーボール 腹部(内臓損傷) 27 日間
平成 25 年 26 年 バレーボール 腹部 4日間
平成 26 年 31 年 バレーボール 腹部 12 日間
平成 27 年 25 年 フットサル 背中(内臓損傷) 24 日間
不明 不明 バレーボール 左大腿部から下肢 不明

この報告書においては、「体育館」とは、「競技用床面積 132 ㎡以上の建物で、必要に応じて各種スポーツが行えるもの」とする。
これは「体育・スポーツ施設現況調査」(文部科学省・スポーツ庁)の定義による。
この報告書においては、床全体を指す場合は「木製床」とし、1枚の板を指す場合は、「床板」とする。
消費者庁が独立行政法人国民生活センターと連携し、関係機関から「事故情報」、「危険情報」を広く収集し、事故防止に役立てるためのデータ収集・提供システム(平成22年4月から運用開始)。消費者庁として事実関係及び因果関係を確認したものではない。
消費者庁の事故情報データバンクに寄せられた事例は2件。それ以外の5件は報道情報によるもの。このほかに、報道情報によれば、2件の軽症の事故があった(平成 24 年、平成 27 年に発生)。

1.2 調査対象

表1の事故は、いずれも学校又は公共の体育館で発生していた。したがって、本調査では、これらの体育館を対象とし、スポーツクラブ等の民間の体育館は対象としないこととした。

(参考)体育館設置箇所数総数 43,022 か所
うち 学校体育・スポーツ施設 32,410 か所
大学・高等専門学校体育施設 1,515 か所
公共スポーツ施設 8,777 か所
民間スポーツ施設 320 か所
出典:調査種別・施設種別 体育・スポーツ施設設置箇所数(平成 27 年度体育・スポーツ施設現況調査 平成 29 年4月 14 日 スポーツ庁から抜粋)

2.事故等原因調査の経過

2.1 選定理由

調査委員会は、「事故等原因調査等の対象の選定指針」(平成 24 年 10 月3日消費者安全調査委員会決定)に基づき、次の要素を重視し、体育館の床板の剝離による負傷事故を事故等原因調査の対象として選定した。
(1)体育館は全国の学校又は公共施設に設置されており、児童から高齢者まで幅広い消費者の利用に供されていて「公共性」が高いこと。
(2)重傷事故が発生しており、「被害の程度」が重大であること。

2.2 調査体制

調査委員会は、木材を利用した床板により危害が発生していることを重視し、体育館の床板の剝離による負傷事故の調査を担当する専門委員として、木材の専門家である国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所の塔村真一郎専門委員及び宇京斉一郎専門委員の2名を指名し、工学等事故調査部会、サービス等事故調査部会及び調査委員会で審議を行った。

2.3 調査の実施経過

平成 27 年
9月25日 第36回調査委員会で事故等原因調査等を行う事案として選定
10月16日 調査委員会第34回工学等事故調査部会で調査計画案審議
平成 28 年
2月8日 調査委員会第37回工学等事故調査部会で調査状況報告
3月18日 第42回調査委員会で調査状況報告
4月8日 調査委員会第39回工学等事故調査部会で追加調査計画案審議
4月15日 第43回調査委員会で追加調査計画案審議
8月4日 調査委員会第43回工学等事故調査部会で調査状況報告
8月30日 第47回調査委員会で調査状況報告
9月2日 調査委員会第44回工学等事故調査部会で経過報告案審議・決定
9月23日 第48回調査委員会で経過報告案審議及び経過報告決定
10月24日 調査委員会第1回サービス等事故調査部会で調査状況報告
11月8日 調査委員会第2回サービス等事故調査部会で調査状況報告
11月18日 第51回調査委員会で調査状況報告
12月20日 調査委員会第3回サービス等事故調査部会で調査状況報告
12月22日 第52回調査委員会で調査状況報告
平成 29 年
1月17日 調査委員会第4回サービス等事故調査部会で調査状況報告及び報
告書骨子案審議
1月26日 第53回調査委員会で調査状況報告及び報告書骨子案審議
2月7日 調査委員会第5回サービス等事故調査部会で報告書素案審議
2月20日 第54回調査委員会で調査状況報告及び報告書素案審議
3月3日 調査委員会第6回サービス等事故調査部会で報告書素案審議
3月14日 第55回調査委員会で報告書素案審議
4月13日 調査委員会第7回サービス等事故調査部会で報告書案審議・決定
4月24日 第56回調査委員会で報告書案審議
5月29日 第57回調査委員会で報告書案審議及び報告書決定

2.4 原因関係者からの意見聴取

原因関係者からの意見聴取を実施した。
原因関係者とは、帰責性の有無にかかわらず、事故等原因に関係があると認められる者をいう(消費者安全法第 23 条第2項第1号)。

3.基礎情報

国内では、体育館の床はほとんどが木製である。
体育館の床板の剝離による負傷事故の原因を調査分析するに当たり、前提となる木材の基本的な性質、体育館の設計及び施工、維持管理に関する情報を基礎情報として以下に示す。

3.1 木材の基本的な性質

木材の基本的な性質として、一般的に以下のことがいわれている。

(1)水分による木材の寸法変化

木材は、周囲の温湿度の変化に応じて、空気中に含まれる水分を取り込み(以下「吸湿」という。)、空気中に水分を放出する(以下「放湿」という。)性質を持つ。
顕微鏡で見ると、木材は中空の細胞が一定の規則性を持って並んだ構造となっている(写真1)。
細胞壁を構成する物質は親水性であり、吸湿時には、細胞壁中で水分と化学的に結合する。
その結果、細胞壁の体積が膨らみ、木材全体の寸法が大きくなる(以下「膨潤」という。)。反対に、放湿時には、細胞壁から水分が抜け、細胞壁の体積が縮み、木材全体の寸法が小さくなる(以下「収縮」という。)。
木材が膨潤・収縮する際の寸法変化の程度は、木材の方向によって異なる。
木材の繊維方向の変形量を1とすると、年輪に対して接線方向ではおよそ 20 倍、放射方向ではおよそ 10 倍変形量が大きくなる(木材の繊維方向、接線方向、放射方向は図1を参照)。
図2及び図3は、生材から切り出した材の乾燥後の形状を示したものであり、木材の方向による変形量の違いによって、このような変形をする。
木材が急速に乾燥すると、木材の内部の水分の分布に偏りが生じ、大きく収縮しようとする箇所と、それ以外の箇所との間にひずみが生じることによって、割れが発生する場合がある。
体育館の木製床に用いる床板は、製造工程であらかじめ乾燥して含水率を調整して出荷される。後述するように、フローリングの日本農林規格では、工場出荷時の含水率が規定されている。
工場出荷後、床板の運搬及び保管時に適切に防水・防湿されなければ、吸湿し含水率が変化する可能性がある。また、施工時に、床板が空気中から余分な水分を吸収する場合も同様である。
利用環境において、周囲の温湿度に応じて床板の含水率は変化するが、その変化が過度に大きくなると、膨潤・収縮に伴う寸法変化量も大きくなる。また、木製床に水が滞留すると、床板の張り合わせ部等、水が浸入しやすい箇所から木材に水が浸透し、膨潤によって大きな寸法変化が生じる。このように過度な含水率変化が生じると、膨潤時には、床板同士の突き上げが生じたり、収縮時には、床板の張り合わせ部の隙間の拡大や幅方向の反りが生じたりするなど、不具合の原因となる。

(2)木材の繊維方向と強度的性質

木材の組織構造により、繊維に直交する放射方向及び接線方向の強度は繊維方向の強度より著しく小さいため、木材は繊維に沿って裂けやすい。

3.2 体育館の木製床の設計・施工

体育館の木製床は、床下地の施工、フローリング張り、木製床の表面研磨、塗装の順で施工される。
実際の施工では、建設工事請負契約において発注者が仕様を定めており、公立学校の施設や公共施設の建設工事については、発注者である各地方公共団体において工事に係る仕様書を定めている。
体育館建設に係る仕様書作成に当たっては、一般社団法人日本フローリング工業会 9による「フローリング張り標準仕様書」(平成 27 年度)や、公益財団法人日本体育施設協会屋内施設フロアー部会 10(以下「屋内施設フロアー部会」という。)による屋内スポーツ施設の企画段階から維持管理についての参考図書「INDOOR SPORTS FLOOR」(以下「ISF」という。)が参照される場合がある。
以下では、体育館の床板、床下地及び塗装に関する基本的な情報を示すとともに、木製床に影響を与える湿気を滞留させないための床下の換気に関する基本的な情報についても示す。

3.2.1 床板

(1)種類・工法

体育館に使用される床板には、大きく分けて単層フローリングと複合フローリングがある。
単層フローリングに使用される樹種及び複合フローリングの表層材に使用される樹種は、カバ、ナラ、ブナが多い。
床板のつなぎ合わせ部分の加工方法として、さね加工や相じゃくり加工がある。

フローリング張りの工法には様々な種類があるが、体育館用の主なものとしては、普通張り工法と、特殊張り工法が存在する。普通張り工法は
下張り板の上に接着剤を塗布し、フローリングを張り付け、隠し釘を下張り板に打ち込むものである。
特殊張り工法は、普通張り工法と同様にフローリングを張り付けた後、木だ栓ぼ穴を開けてビス留めし、接着剤を塗布した木だ栓ぼを埋め込むものであり、昭和 39 年の東京オリンピック以降に広まった。

(2)フローリングの日本農林規格

フローリングの日本農林規格では、材面、側面加工、雄ざねの欠け、曲がり、段違い、寸法等の品質、表示事項及び試験方法等が定められているところ、工場出荷時の含水率についても規定されており、単層フローリングの含水率は天然乾燥の広葉樹では 17%以下、人工乾燥の広葉樹では 13%以下、また、複合フローリングの含水率は、14%以下とされている。
体育館を含む公共施設の建設における床板は、仕様書において、フローリングの日本農林規格により品質が証明されたものを使用すること、とされている場合が多い。

3.2.2 床下地

体育館に特有の鋼製床下地は、日本工業規格 12JIS A6519:2013「体育館用鋼製床下地構成材」13により、根太や大引等の鋼製部材、緩衝材等を用いて構成されたものであること、種類、品質、材料、試験方法等が定められている。
この規格に適合することにより、体育館の木製床に要求される載荷荷重、衝撃耐性、弾力性、硬さ、平滑性等の性能が保証される。

3.2.3 塗装

いわゆる住宅用のフローリングは、塗装済み 15の床板を張り込むのが一般的であるのに対し、体育館の木製床は鋼製床下地の根太に下張り板を張り、その上に表面を塗装していない床板を張り、現場において塗装を行うことに特徴がある。
その作業工程としては、下張り板に床板を接着した後、表面の段差や傷、汚れを取り除き、塗装の素地作りのため全面をドラムサンダー等の研磨機で研磨する
(以下「サンダー掛け」という。)。このとき、サンダー掛けは、研磨材の粗さを変えて、荒掛け、中掛け、仕上掛けの計3回行う。
清掃後、ポリウレタン樹脂塗料で塗装する。
塗装は、塗料を下塗りし、乾燥 17後ポリッシャーで研磨し掃除機でちりを除き、さらに中塗りをして乾燥、ポリッシャーで研磨する作業を1~2回繰り返す。専用塗料で競技コートラインを引き、上塗りし乾燥させる。
このようなポリウレタン樹脂塗料での塗装(以下「ウレタン塗装」という。)によってできた塗膜は、木製床を保護し美観を保つとともに、適正な滑り抵抗 20を確保し、スポーツを安全に行えるようにする重要な役割を持つ。
利用するに従い塗膜が摩耗したり傷付いたりすると、木製床の保護が不十分となる。
屋内施設フロアー部会によれば、木製床の塗膜の耐用年数は施設の利用状況により異なる場合があるが、10 年程度とのことである。

3.2.4 床下の換気

床下には、体育館の木製床に悪影響を及ぼす湿気の滞留を防止するため、換気口を設ける。
自然換気の場合は屋外の風による空気の圧力の差を利用して換気を行う。
自然換気によって換気が確保できない場合や、換気量が不足する場合は、換気扇等の強制換気設備を備え、換気を行う場合もある。

3.3 維持管理

3.3.1 維持管理の重要性と分類

公立学校及び公共の体育館において維持管理を外部委託する場合には、各地方公共団体において仕様書を定めることとなる。仕様書の作成に当たり、屋内施設フロアー部会の発行する書籍「スポーツフロアのメンテナンス」21や一般社団法人日本フローリング工業会による「フローリング張り標準仕様書」のメンテナンスに関する仕様が参考とされている場合がある。
「スポーツフロアのメンテナンス」では、体育館の機能の中で木製床の持つ役割は最も重要であり、床の施工が完全なものであっても、その後の維持管理が不適当では床の性能が劣化するとして、スポーツフロアの維持管理は体育館の維持の中でも特に大切であると述べている。スポーツフロアの維持管理の基本として、
・清潔であること
・床表面の光沢、滑り抵抗を、スポーツを行う最適な状態に保持すること
・破損箇所が放置されていないこと
の3点を挙げ、これをいかに日常的に、また、長期にわたり維持していくかが、スポーツフロアの維持管理の全てであるとしている。
木製床の性能の劣化と改修の関係を図9に示す。ただし、施設の利用状況により、異なる場合がある。

同書では、スポーツフロアの維持管理を、「清掃管理」、「保守管理」及び「改修(リフォーム)」に分類している。
「清掃管理」は、体育館の利用前後に行う「日常清掃」と、日常清掃では取りきれない汚れを除去するために数か月に一度行う「特別清掃」に分類される。
「保守管理」は、床の損傷や劣化を防ぐために行う「保護」、床の劣化や損傷状態を調べる「点検」、損傷部分を直して性能を回復させる「補修」に分けられる。「改修(リフォーム)」は、損傷部分だけでなくまだ使用できる部分を含めて性能や美観を回復させる方法であり、時には木製床の性能や機能の改善のために行う場合もある。本報告書においても同様の分類とし、「清掃管理」、「保守管理」及び「改修(リフォーム)」を併せて「維持管理」という。

3.3.2 維持管理の方法

「スポーツフロアのメンテナンス」は、体育館の木製床の維持管理方法を詳細に記載している。以下にその概要を示す。

(1)清掃管理

日常清掃の基本は、なるべくこまめに床表面の土砂、ほこり、ゴミ、汚れを除去し、清潔に保つことである。
日常清掃が適切でないと塗装面の耐用年数が短縮し、思い掛けない転倒事故を引き起こすおそれがある。
日常清掃は、体育館専用のモップで、体育館の利用前後に乾拭きを行う。
いわゆる化学モップは、帯電防止剤処理がされており木製床が滑りやすくなる場合があるので注意を要する。
塗膜の摩耗等により、木材の素地が出ている部分から水が浸透し、膨潤、反り、変色などを起こすおそれがあるため、基本的には水拭きはしない。
また、汚れ除去のために水や洗剤を使う場合も固く絞った雑巾で拭き、汚れの除去後は乾いた布で水分を拭き取る。
ほこりが床に付着して取りにくい時は、固く絞った雑巾で拭き、ラバークリーナー等の溶剤タイプのクリーナーによるモップ拭きをすることが効果的であるが、ほこりやゴミがある状態でクリーナーによるモップ拭きをするとほこりが床に付着して、かえって汚れが取れにくくなるので注意が必要である。
日常清掃を行っても、それだけでは取りきれないほこり、ヒールマーク(靴でこすれた跡)、ラインテープののり跡が蓄積するため、3~4か月に1度程度、特別清掃を行う必要がある。特に激しいスポーツを行った後には、汗その他の汚れが残り、また、集会や催し物に使用したシートの汚れが残ることもある。このような場合にも特別清掃が必要である。糖分、塩分、汗や血液等の水溶性の汚れは固く絞った雑巾で拭き取り、それらの汚れが取りにくい時は中性洗剤で拭き、さらに水を絞った雑巾で拭き取って落とす。油溶性の汚れは、汚れた後すぐの場合は中性洗剤、時間の経った汚れはアルカリ洗剤、溶剤タイプのクリーナー、ベンジン等で取るが、塗膜や木質を傷めないよう気を付ける。土砂やほこりなどの不溶性の汚れは、体育館専用のモップで乾拭きして取り除く。

(2)保守管理(保護・ワックス掛けの禁止)

同書では、木製床の性能を劣化させる要因の一つとして、ワックス 22が挙げられている。
ワックス掛けが禁止されるべき理由として、同書に記載されている内容を示す。
現在、大部分の体育館の木製床はウレタン塗装されており、スポーツ競技に適した滑り抵抗になるよう設計され、耐摩耗性・耐水性など優れた性能を有している。
日常清潔に維持すれば、特にワックスを塗る必要はない。
ワックスはポリウレタン樹脂塗料と比較して耐摩耗性が低いため、定期的にワックスを掛け直さないと滑りやすくなる。
さらに、補修や改修のためポリウレタン樹脂塗料を再塗装する場合、ワックスを塗った床はポリウレタン樹脂塗料をはじいてしまうため、ワックスの剝離作業を行う必要が生じる。
剝離作業においては、水分を含んだ剝離剤をある程度の時間床面に滞在させる必要があり、水分が浸透することで床面が反ったり、剝離不十分により塗料が密着しなかったりする場合もある。

(3)保守管理(保護・その他)

ワックス以外に、木製床の性能を劣化させる要因としては、水分と湿気、土砂、尖った硬い物が挙げられる。水分は木材の寸法を変化させ、反り等の変形を発生させるほか、カビや腐朽の原因となる。
土砂は塗装面を傷つけ摩耗させるとともに、木製床を滑りやすくし、室内に土砂を残したままにしておくと、靴で土砂が動く度に木製床を傷付けることになる。
また、木製床は傘の先や金属製の椅子などの尖った硬い物に触れると傷が付きやすい。
土砂・ワックス類や併設されたシャワー室等からの水分の持ち込みを防止するためには、入口にマットを置くことが最も効果的である。
その他、木製床を保護する対策として、土足禁止、傘類の持込禁止、フロアシートの利用、椅子の脚などへのカバーの使用、重量物の運搬・設置の際には合板などを敷くこと、運搬車使用時には車輪が木製床を傷付けないようにすること、結露の防止などが挙げられる。
表2のような注意表示を、体育館の管理室等に掲示しておくことが望ましい。
このほか、床金具の保護、換気口・点検口の保護、床下地材の保護が必要である。

(4)保守管理(点検)

安全性を確保するために、①、②、③、④について点検を行う必要がある。日常的な点検(以下「日常点検」という。)は、表3「簡易診断シート」の☆印の項目について行う。
また、日常点検に加えて、年に2回以上を目安に、点検を行う(以下「定期点検」という。)。定期点検は表3「簡易診断シート」の全ての項目について行う。
以下、点検方法及び点検で発見された問題に対する処置例を示す。

① 床面塗装

運動靴を履いて実際に運動をしてみて、床面が滑りすぎる、又は滑らなさすぎるといったことがないかを点検する。
滑りすぎる場合は、外部からの土砂、ワックス類が持ち込まれている可能性があるため点検しそれを除去する。
滑らなさすぎる場合は、塗膜が摩耗している可能性があるため、ウレタン塗装の重ね塗りなどを検討する。
塗装面の光沢の減少、摩耗、傷、剝がれの有無を点検する。
写真2のようにラインが欠けている場合には、塗膜が摩耗しているので、こういった場合には、専門業者 23に相談するなどして劣化の程度に応じて補修を検討する。

② 床板

傷、割れ、反り、浮き、目違い、木だ栓ぼの浮き、抜けの有無を点検する。
そのほか、歩行や運動時に床鳴り、緩み、たわみを感じるか、バスケットボールで床全体をまんべんなくドリブルをしてみて、ボールの弾み具合が異常に悪い所がないかを点検する。
傷、割れ等を発見した場合は、まずテープを貼り、また、危険な場合は使用禁止の処置をとり、できるだけ速やかに専門業者に相談する。
写真3、写真4は、床板の割れの例である。割れが進行すると、床板の一部がくさび形に剝がれるおそれがある。

③ 床金具類

床金具の緩み、浮き、ずれがないかを点検する。異常があればテープを貼るなど危険防止の応急処置をし、専門業者に補修を依頼する。バレーボール用のポールなど体育器具のぐらつき等の異常がないかを点検する。
異常がある場合は、ポールの根元を支えるモルタルが壊れ、ぐらつきが生じている可能性があるため、利用を中止し、できるだけ速やかに専門業者に相談する。

④ 床下

床下点検口を開け、水たまりや湿気、カビ臭、支持脚の浮きや曲がりがないことを点検する。
異常がある場合は、状況に応じて利用を中止し、できるだけ速やかに専門業者に相談する。

(5)保守管理(補修)及び改修

体育館の木製床に劣化や不具合が生じた場合には、まずは専門業者に相談することが重要である。
不具合の状況に応じた補修又は改修が必要であるところ、不具合の度合いが小さければ簡単な補修により修復が可能であるが、劣化の進行や不具合の度合いが大きければ大規模な改修が必要となるため、早期に発見し対策を施すことが必要である。
どのような補修又は改修が必要かは、専門業者の調査・診断により対応策を決めることになる。

① 塗装面

塗装面においては、使用に伴い塗膜が摩耗していくが、適度な滑り抵抗を保持していないと、安全性を損なうとともに競技に支障を来すため、損傷の程度によって、部分塗装、全面塗装、又はサンダー掛け後の再塗装といった補修や改修を施す必要がある。
塗膜が部分的に損傷した場合は、部分補修で修復可能であり、塗装部分以外をマスキングして部分塗装を行う。
使用の激しい場所の光沢がなくなった、ラインが一部剝がれた、塗料の摩擦性能が変化し滑りやすくなった等の塗膜の付着性が十分保たれていると判断できる場合には、既存のウレタン塗装の上からの全面重ね塗りが適当である。
このような部分塗装や全面重ね塗りを行う場合には、既存塗料との密着不良が起こらないことを確認する必要がある。
一方、使用の激しい部分の塗装が剝がれた、塗膜が摩耗し、床面の地肌が散見される等の塗膜の状態が悪い場合は、全面サンダー掛けを行い、古い塗膜を全て落として再塗装を行うことが適当である。

② 木製床

木製床については、部分的な不具合であれば部分補修で対応可能である。
パテによる隙間埋め補修(写真5)、接着剤による割れやささくれ補修、木だ栓ぼを一旦抜き取り、接着剤をつけて再度打ち込む木だ栓ぼの浮き補修等の方法がある。
床板の反り、浮き、割れや表面の傷、変色又は床鳴り等の部分的な傷みが著しい場合は、部分的に張り替える必要がある。さらに、床板の傷みが激しくても床下地が健全であれば重ね張り等で対処することも可能である。

3.3.3 維持管理に関する資格等

公益財団法人日本体育施設協会及び独立行政法人日本スポーツ振興センターは、体育館を含むスポーツ施設全般の維持管理・運営に関する知識と技能を有する人材を育成することを目的として「体育施設管理士養成講習会」等を主催している。
講習項目としてスポーツ施設の維持管理、スポーツフロアーの維持管理、体育施設の劣化と保全等が設定されており、受講して試験に合格した者に同協会が「体育施設管理士」の資格を認定している。
また、同協会は、平成 29 年3月に、「木製床管理者養成講習会」を開催した。
これは、木製床の維持管理に必要な知識や技能を習得することによって体育館の管理者の人材育成を図り、より良いスポーツ環境の整備に寄与することを目的とするものである。
講習項目として、木材の性質、木製床の構造と特徴、木製床の正しい維持管理の方法等が設定されている。

3.3.4 関係機関の取組

文部科学省では、体育館を含む学校施設の維持管理について、その重要性や手法等について解説した手引を作成し、平成 28 年3月に「子供たちの安全を守るために」を公表している。
ここでは、「安全、安心な教育環境を確保するためには学校施設の『維持管理』を適切に実施することが不可欠」、「長期的な修繕計画がある場合であっても、定期的に点検を実施し、必要な修繕等を行うことが不可
欠」などとして、学校施設の維持管理の重要性について記載している。
また、関連トピックとして体育館等の床板の剝離による事故の防止等について紹介している。
この維持管理の重要性については、「安全で快適な学校施設を維持するために」(平成 13 年3月)を始め、繰り返し周知が行われている 。
さらに、文部科学省及びスポーツ庁は、調査委員会の事故等原因調査が開始されたことを受けて、平成 27 年 12 月、各都道府県教育委員会等に対し、「体育館等の床から剥離した床板による負傷事故の防止について」を発出し、点検や速やかな補修又は改修の必要性について周知している。

4.事故等について認定した事実と分析

調査委員会は、分析に当たり、事故が発生した体育館のうち4か所について、現地調査を行った。
体育館の床板の剝離による負傷事故は、被災者が木製床に対して具体的にどのような動きをした際に発生したかを確認した。
また、木製床は、水分その他の影響により変化して、木材の繊維に沿って割れを起こすことがある。
そのため、事故が発生した体育館の立地環境、設計・施工、床板の材質、塗装等の建設そのものに関わる点、竣工からの経過年数や日常の利用、利用後の清掃や定期的な点検等の維持管理の方法についても調査を行った。

さらに、幅広く体育館の現状を把握し、床板に剝離を生じさせる要因を探り、再発防止策を検討するため、全国の体育館に建設及び維持管理についてのアンケート調査を実施した。
なお、床板の種類や状態、設置環境は様々であり、被災者の衣服、体型、動き等、関係する要素が多岐にわたり、不明な点も多いことから、再現実験等から事故の発生原因を明らかにし、再発防止策を導き出すことは困難であると考えられた。

4.1 事故が発生した体育館における現地調査の分析

以下では、事例1~4について、(1)には、体育館の所有者からの聴き取り、提出資料及び現地調査により認定した事実を示し、(2)には(1)を基にした事故の要因を示す。

4.1.1 事例1

① 事故概要
フットサルサークルの練習中、他の学生2名がパス回しをしていた。
ゴールキーパーであった被災者が、パス回しをしている2名の間のボールを途中で奪おうとして飛び込み、背面で床を滑った際に、床板の一部が被災者の背中に刺さり、負傷した。

② 体育館の概要

構造:鉄筋コンクリート、屋根鉄骨造
階層:体育館のみの施設の1階
床面積:長辺 38.5m×短辺 23m 木製床(種類、樹種、工法):単層フローリング(厚さ 18mm)、カバ、特殊張り
塗料:ポリウレタン樹脂塗料(詳細不明)
床下地:鋼製床下地、組床式
空調設備:なし。窓開けによる自然換気。床下換気口あり。
所有者:大学法人
竣工から事故発生までの年数:51 年(床全面改修からは 25 年)
利用実態等:
・他の体育館が大学設立当初から主として利用されており、本体育館は夜間の利用がほとんどで、日中は閉め切られた状態が続いていた。
・事故発生の7年前頃から強雨のときに雨漏りがあり、事故発生の2年前の耐震改修の際に屋根の葺替え工事を行った。

維持管理

日常清掃:利用者に対しては義務付けがなされておらず、委託清掃業者によって週2回のモップを使った乾拭き。
特別清掃:年2回の水拭き、洗浄、ワックス掛け。
日常点検:週2回の清掃時に清掃業者が点検。何か不具合があれば管理者に連絡することとされており、点検項目は定められていなかった。
改修:事故発生の 25 年前に床全面改修。このときの資料は保管されておらず、詳細は不明。

④ 事故当日の状況
当日の清掃・点検:清掃業者が清掃した際には、異常を感じる点は特に見出されなかった。
被災者の行動:フットサル練習中、パスカットを行った。

⑤ 負傷状況
診断名:外傷性肝損傷
症状:肩口から木片が刺さり、肺を貫通し肝臓まで達する。24 日間の入院及び自宅安静。35cm の術後瘢痕。

⑥ 現地調査で確認した木製床の状況(事故発生から3か月後)
・事故発生箇所は、体育館中央部に位置し、床板の幅方向のつなぎ目で大きくくさび形に剝離している状況であった。床板の側面には、さね加工があり、くさび形に剝離したのは、雌ざね側で、長さ 300mm33、幅 40mm、先端から徐々に厚くなり最大厚さ7mm であった。
・体育館床全面にわたり、最大で5mm 程度の目隙、最大3mm 程度の段差、割れ、床材・塗装の剝離が確認された(図 1234、写真6~10)。
・雨漏りが発生していたと考えられる場所では、床板に部分的に水滴によるものと思われる変色がみられた。

⑦ 事故後にとられた対策
事故発生後、即日体育館の利用を禁止し、年度内に床板の張り替え工事を行った。
(2)事故の要因
① 体育館の床板に不具合を生じさせた要因
事故後の現地調査では、体育館の床全面に目隙、段差、割れ、床板・塗装の剝離がみられた。このような床板の不具合を生じさせた要因としては、次のものが挙げられる。
・現地調査の時点で最大で5mm 程度の目隙がみられた。これは、過去に何らかの形で木製床に水が浸入することで床板が膨潤し、床板同士が相互に押し合う等して初期の施工位置からずれた後に、乾燥収縮し現地調査時点の状態となったためと考えられる。
本体育館では、以前、屋根の防水処理の劣化によって雨漏りが発生しており、木製床に水が浸入した事実が確認されている。
・本体育館では、25 年間にわたり、毎年、年2回の水拭き、洗浄とワックス掛けが行われていた。床板の不具合により、水分が木製床に浸入しやすい状況下で、洗浄や水拭きを行うことで、床板の反りや亀裂の発生を助長したと考えられる。
・25 年間、ポリウレタン樹脂塗料の重ね塗り、全面サンダー掛け後の再塗装、床板の一部・全部張り替えといった補修又は改修が行われていなかったことや、雨漏りを防ぐための屋根の防水等、床板の損傷の発生を防止する対策が遅れたことによっ、床板の不具合が累積し、事故につながった可能性があると考えられる。

② 被災者の動きと床板
床板の長手方向に被災者が滑り込んで雌ざね側端部から繊維に沿って木材が剝離し、身体に刺さった。

4.1.2 事例2

(1)認定した事実
① 事故概要
被災者は、ボールを使用しないフライングレシーブの練習で床に滑り込んだ際に、床板の一部が腹部に刺さり、負傷した。
② 体育館の概要
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造階層:プール等を含む複合施設の地下1階 木製床(種類、樹種、工法):複合フローリング(厚さ 18mm)、カバ、普通張り 床下地:鋼製床下地、組床式 空調設備:床上空調・換気扇あり(湿度の高いときに稼働)。床下は床上通風口のみの自然換気。
所有者:学校法人
竣工からの年数:2年
塗料:油性1液型ポリウレタン樹脂塗料
利用実態等:・バレーボール部及びバスケットボール部の活動、授業、行事で頻繁に利用。
行事で椅子やステージ等を床に設置する際には、塩化ビニルのシートを敷いている。
・雨漏りはなし。ただし、竣工当初、湿気で床面が濡れている状態が発生し、空調又は夜間の換気扇を稼動して対応した。
・竣工1年5か月後と2年後にバレーボール用ネットの支柱固定穴が床板の長手方向に 10~15mm 程度ずれ、支柱が入らなくなったことがあった。
支柱の床面開口部金物を移動して対応した。

③ 維持管理
日常清掃:毎日部活動前に生徒によるモップでの乾拭きを行っていた。
特別清掃:なし。
日常点検:部活動で利用する際、モップ掛けと同時に行っていた。授業前にも教員がゴミや危険物の有無を確認。点検項目は定められていなかった。
定期点検:年1回校内全施設点検として、体育館についても施設設備の老朽化、破損、危険箇所の確認と記録を行っており、竣工後1年目(1年1か月後)と2年目(2年2か月後)に施工業者、電気及び機械設備施工業者、学校職員で実施。体育館の木製床については破損、危険箇所の判断はなかった。
改修:なし。
その他:引渡し時に施工業者から学校の管財担当者に対してチェックリスト及びメンテナンスマニュアル等は提出されていなかった。
ワックス掛けについては行っていなかった。

④ 事故当日の状況
当日の清掃・点検:部活動(練習試合)前に生徒3名でモップ掛けを行い、教員、コーチ、部員全員でフロア上のゴミや忘れ物の点検を行ったが、その際試合や練習に支障を来すような事情は特に見出されなかった。
被災者の行動:ボールを使用せずバレーボールのフライングレシーブ練習をしていた。2~3m助走してジャンプし、着地の際、床に両手をつき肘を曲げて胸から床に滑り込んだ直後に痛みを感じた。

⑤ 負傷状況
診断名:腹部刺創 胃・小腸・結腸・腸腰筋損傷
症状:木片が左乳首下部から腹腔内へ進入し、胃、横行結腸、空腸、腸間膜を貫通。
開腹手術により全長 34cm の木片を分割して摘出。
手術後腸閉塞発症。
入院 27 日。

現地調査で確認した木製床の状況(事故発生から1年6か月後)現地調査時には、スポーツ用ビニルシートが全面に敷設されており、目隙、段差、剝離は確認することはできなかった。関係者からの聴き取りによれば、事故直後の点検で剝離が1か所確認されたとのことであった。
事故の発生した箇所の床の下張り板と床板部分を1m四方で保存してあった。
床板の剝離部位は、床板1枚の単位でみると、床板の幅方向端部に位置しており、長手方向においても端部に位置していた。当該床板は長さ
1,800mm、幅 135mm、厚さ 12mm の合板を基材とし、その上に幅 27mm、厚さ6mm のカバ材が積層接着された製品であった。剝離した木片は、長さ 300 ㎜
×幅 25mm×最大厚さ6mm の雌ざね側に位置するカバ材の部分であった。

⑦ 事故後にとられた対策
スポーツ用ビニルシートを木製床全面に敷設した。

(2)事故の要因

① 体育館の床板に不具合を生じさせた要因
本体育館では、竣工当初、床面が湿気で濡れているような状態が生じ、空調や夜間の換気扇の稼働により対応していたとのことである。
また、木製床が水平方向に変形した事実が報告されている。すなわち、事故の起こる前、竣工5か月後(7月)と2年後(2月)に、体育館の中央付近の木製床に設けられたバレーボール用ネットの支柱固定穴と、基礎に固定された支柱を受ける穴とが、長手方向に 10~15mm 程度ずれ、支柱が入らなくなるという事態が生じていた。
竣工後に床板が、膨潤又は収縮したことにより、当初の位置から床面が動いたものと考えられる。
このとき、体育館の木製床全体が均等に変形していれば、木製床の外周に設けられた隙間 35によって変形はある程度吸収され得るが、床の変形が一部のエリアに偏っていた場合、変形に伴って一部の床板に力が集中し、割れ等の損傷が発生する可能性があると考えられる。
これらの情報から総合して、竣工後の室内や床下の環境が適切に維持されず、床板の含水率が製品出荷時の含水率から大きく変動していた可能性があると考えられる。
② 被災者の動きと床板
フライングレシーブの練習で床板の長手方向に被災者が滑り込んだ際に、繊維に沿って表層材が剝離し、身体に刺さった。

4.1.3 事例3

① 事故概要
被災者は、バレーボールの試合の合間にボールを使用して2名で練習中、相手選手が軽くスパイクを打ち、そのボールをフライングレシーブの体勢で
受けようとして上半身から床面に滑り込んだ際に、床板の木片が腹部に刺さり5針を縫う傷害を負った。

② 体育館の概要
構造:鉄筋鉄骨コンクリート造
階層:複合施設の2階
床面積:3,010 ㎡(70m×43m)
木製床(種類、樹種、工法):単層フローリング(厚さ 20mm)、アサダザクラ、特殊張り床下地:鋼製床下地、置き床式
空調設備:床上温度空調あり。床下機械換気設備あり。
温湿度は、夜間以外に1日4回測定していた。空調に加湿・調湿機能はなく、湿度が 40~70%に保たれるよう床下換気設備も併用し電源のオン・オフで調節。

所有者:地方公共団体
竣工からの年数:26 年
塗料:油性ポリウレタン樹脂塗料4回塗り
利用実態等:
・ほぼ毎日、スポーツやイベントで利用。座席等の設置の際には、二重にシートを敷く。
・雨漏りはあったが、客席がある部分のため床に直接の影響はなかった。

③ 維持管理
日常清掃:利用者が利用後にモップで乾拭き、指定管理者 36は乾拭きと汚れがあればクリーナーで汚れ取りを行っていた。
特別清掃:指定管理者が年2回ドレッシングオイル 37で洗浄していた。
日常点検:利用終了時、滑り具合、傷や割れ、床鳴りの有無確認を実施していた。
定期点検:年に1度、指定管理者が実施していた。
改修:なし。
④ 事故当日の状況
事故当日の清掃・点検:なし(3日前の夕方に実施。その後、利用者に貸し出したため、指定管理者による清掃・点検は実施せず。)。
被災者の行動:バレーボールのフライングレシーブをしていた。
その他:被災者からの聴き取りによれば、木製床に特段の損傷があるとは気付かず、危険性も感じなかったとのこと。
⑤ 負傷状況
診断名:皮下異物(杙創)
症状:右下腹部から入力し 12cm 程の木片が右大腿近位に貫通。
木片は皮下脂肪層にとどまり深部臓器や筋肉へは到達していなかった。
救急搬送され異物除去術、洗浄術を行った。入院4日。
⑥ 現地調査 38で確認した木製床の状況(事故発生から3年5か月後)
事故発生箇所は体育館に4面あるバレーボールコートの端に位置していた。
床板の側面にはさね加工があり、くさび形に剝離したのは、記録写真で見る限り、雌ざね側と推測された。剝離した木片は、長さ 400mm×幅 30 ㎜×最大厚さ5㎜

⑦ 事故後にとられた対策
事故直後、事故発生により破損した箇所はパテで埋め、その他、危険と思われる箇所はテープを貼った。
改修準備が整うまでの間は、スポーツ用ポリプロピレンシートを設置した。
事故発生 11 か月後にこれを撤去し、部分張り替え、全面サンダー掛け、ポリウレタン樹脂塗料4回塗りの改修を行った。
上記改修以降は、従前の点検に加え、年1回の専門業者による全面点検及び補修を行うこととなった。
併せて、ダストクロスモップ 39にストッキングをかぶせてモップ掛けを行うことにより、目視で確認しにくい細かなささくれを検出する点検方法もとっている。

(2)事故の要因

① 体育館の床板に不具合を生じさせた要因
本体育館では、日常清掃ではモップによる乾拭きを行っており、また、26年間、空調等により温湿度が管理されているとのことで、水分の影響により木製床の劣化が生じた事実は確認できなかった。他方で、本体育館は、年間を通じて多目的に利用されており、木製床に施された部分補修の跡から、利用時の力の作用などによって床板に不具合が生じる頻度も通常の体育館より多いことが推定される。
現地調査の際も、事故後行われた再塗装の結果できた塗膜の下に、補修の箇所が多数みられた。これらの補修は、予防的に行った部分も含むとのことであったが、事故が発生した当時、木製床全体に不具合が累積していたと考えられる。
本体育館は、利用頻度が高いにもかかわらず、竣工後、26 年間、ポリウレタン樹脂塗料の重ね塗り、全面サンダー掛け後の再塗装などの改修は行われていなかったため、木製床表面に発生した損傷が累積した状態にあり、事故につながる不具合が発生しやすい状況にあったと考えられる。
② 被災者の動きと床板
フライングレシーブの練習で床板の長手方向に被災者が滑り込んだ際に、繊維に沿って木材が剝離し、身体に刺さった。

4.1.4 事例4

(1)認定した事実
① 事故概要
バレーボールの練習中に前方のボールをフライングレシーブし、左胸を強く打ち付けて滑り込んだ。そのときに床板の一部が刺さった。病院で木片が刺さっていることが判明し、摘出手術。
② 体育館の概要
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階層:1階(体育館のみ)木製床(種類、樹種、工法):単層フローリング、カバザクラ、特殊張り
床下地:鋼製床下地、組床式
空調設備:なし。窓開けによる自然換気。
所有者:地方公共団体 改築からの年数:8年(竣工後 29 年で改築)
塗料:水性ポリウレタン樹脂塗料3回塗り
利用実態等:
・部活(バレーボール)、授業、イベント等で頻繁に利用。
・雨漏りなし。

③ 維持管理
日常清掃:週3回の掃除時間や部活動での利用後に生徒がモップで乾拭き。地域に開放時は、利用前後に利用者が乾拭き。
特別清掃:年1回生徒がワックス掛けを実施。
日常点検:生徒や地域利用者が利用前後に目視。点検項目は定められていなかった。
④ 事故当日の状況
当日の清掃・点検:不明
被災者の行動:バレーボールのフライングレシーブをしていた。
⑤ 負傷状況
症状:病院で木片が刺さっていることが判明し、摘出手術。乳首付近より下肢方向へ長さ 120mm、幅 10mm、厚さ3mm 程度の木片が刺さっていた(図 17)。入院7日。
⑥ 現地調査で確認した木製床の状況(事故発生から3年後)本体育館は事故発生 10 か月後に全面サンダー掛け後の再塗装が施されていたが、事故発生から3年後に行った現地調査では床面の板と板の境目に2cm 程度の割れが認められた(写真 11)。
長さ5mm から 10mm 程度の割れは数十か所で観察された。
亀裂はおおむね木材の繊維に沿って生じていると考えられる。
さらにこの亀裂を観察すると、くさび形の亀裂の先端が隣の床板に残っているものが観察された。

⑦ 事故後にとられた対策
事故後、職員が木製床全面を点検し、亀裂が確認できた約 100 か所に養生テープを貼った。
しかし、9か月後に同様の事故(軽傷)が発生し、本体育館は事故の 10 か月後、軽傷事故の1か月後に全面サンダー掛け後の再塗装が施された。

(2)事故の要因

① 体育館の床板に不具合を生じさせた要因
本体育館の木製床の塗装及び施工方法の詳細は不明であるが、木製床の施工時又は施工後のいずれかの段階で、隣り合う床板の側面で、ポリウレタン樹脂塗料によって固着が生じていた可能性があると考えられる。
その後、使用環境における床板の含水率の変化によって収縮が生じ、床板同士の隙間が広がった際に、固着した亀裂の先端が他方の材に残った場合に、写真のように表面材の裂けが生じると考えられる。
床板同士の間にはところどころ1mm 弱の隙間が生じており、指で触れて検知できるような段差が生じている箇所もみられた。上述のような亀裂が、このような隙間にあった場合、使用時に力が加わることで、亀裂がさらに伸展したり、面外に起き上がったりする可能性が考えられる。
② 被災者の動きと床板
フライングレシーブで床板の長手方向に被災者が滑り込んだ際に、繊維に
沿って木材が剝離し、身体に刺さった。

4.2 アンケート調査

再発防止策を検討するため、文部科学省の協力の下、公立学校及び公共の体育館における施設の状況や維持管理の実態を把握するアンケート調査を実施した。
全国(平成 28 年4月に発生した熊本地震の影響を考慮し、熊本県、大分県を除く。)の、公立の小学校・中学校・高等学校のうち 2,000 施設、公共の体育館のうち 800 施設 40を、それぞれ都道府県内の施設数をベースとし、地域間で
偏りのないよう無作為に抽出し、アンケート調査を行った。
そのうち、学校1,601 施設(以下本項では「学校」という。)、公共の体育館 641 施設(以下本項では「公共」という。)から回答を得た。回収率はそれぞれ 80%であった。
アンケート調査期間は、平成 28 年7月 27 日から同年8月 31 日までである。
以下ではその結果について示す。

4.2.1 施設の状況
(1)竣工年
学校、公共とも竣工後 30~40 年経過している施設が最も多く、中には、40年以上経過している施設もみられた。

(2)フローリング 41の種類、樹種
フローリングの種類については、不明(学校では 44%、公共では 68%)を除くと、学校、公共とも単層フローリングと複合フローリングの割合が同程度
(学校は単層フローリングが 26%、複合フローリングが 30%、公共は単層フローリングが 15%、複合フローリングが 17%)であった。

単層又は複合フローリングと回答のあった施設に対し、単層フローリングの樹種又は複合フローリングの表層材の樹種について尋ねたところ、学校ではカバ 42が 34%で最も多く、ナラが 16%、ブナが 14%、カエデが 16%であった。
公共ではカバが 38%で不明が 40%であった。

(3)床上の空調及び床下の換気
床上については、学校の 94%、公共の 77%で「空調設備はない」との回答であった。
床下については、「強制換気設備はなく、自然換気を行っている」との回答が学校は 95%、公共は 81%であった。
(4)立地環境等
体育館の温湿度に影響を与える可能性のある立地環境及び建物構造等に関し、図 21 に示す項目について複数回答で尋ねた結果は以下のとおりであった。

4.2.2 維持管理

(1)日常清掃
日常清掃に関し、複数回答で尋ねた結果は以下のとおりであった。
① 「乾拭きを行っている」と回答した学校は 97%、公共は 90%であった。
② 乾拭きの実施者については、学校は、児童・生徒が 94%、教員が 19%、学校用務員が5%であり、公共は、施設利用者が 81%、施設職員が 31%、委託等による清掃作業員が 28%であった。
③ 「水拭きを行っている」と回答した学校、公共は共に5%であった。
④ 水拭きの実施者については、学校は、児童・生徒が 98%、教員が 15%、学校用務員が1%であり、公共は、清掃作業員が 65%、施設職員が 32%、施設利用者が6%であった。
⑤ 「日常的に清掃を行っていない」という回答もみられた。
(2)定期清掃 43
週、月又は年単位で定期的に行う清掃に関し、図 22 に示す項目について複数回答で尋ねた結果は以下のとおりであった。
① 「水拭きをしている」と回答した学校は9%、公共は 11%であった。「水拭きをしている」と回答したものの中には、洗剤を使用しているものもあった。
② 「ワックス掛けを行っている」と回答した学校は 46%、公共は 42%であった。
③ ワックス掛けの実施者については、学校は教員が48%、児童・生徒が29%、学校用務員が 11%、公共は清掃作業員が 84%、施設職員が 14%であった。
④ 「定期清掃を行っていない」と回答した学校は 41%、公共は 37%であった。

(3)日常点検
日常的に行う点検に関し、図 23 に示す項目について複数回答で尋ねた結果は以下のとおりであった。
① 「日常点検は行っていない」と回答した学校は 11%、公共は 28%であった。
日常点検として、「フローリングの傷、割れ等を確認している」と回答した学校は 83%、公共は 64%であった。
② 日常点検の実施者 45について、複数回答で尋ねたところ、「日常点検は行っていない」の回答を除いたもののうち、学校は、教員が 96%、学校用務員が 16%、児童・生徒が8%、公共は、施設職員が 45%、指定管理者が 45%、地方公共団体職員が 11%、指定管理者以外の受託業者が 11%であった。

(4)定期点検
定期点検(年に数回程度、あらかじめ定められた項目について行う点検)に関し、表4に示す質問項目について複数回答で尋ねた結果は以下のとおりであった。
① 全ての項目において「行っていない」と回答した学校は 20%、公共は 49%であった。
特に、学校は「床下の点検は行っていない」と回答した割合は、54%であった。
公共は「床面塗装の確認は行っていない」と回答した割合が 61%、「フローリングの点検は行っていない」と回答した割合が 53%であった。
フローリングについては、「傷・割れの有無を確認している」と回答した学校が 70%、公共が 38%であった。
② 定期点検の実施者 46については、学校は学校職員が 80%、公共では、指定管理者が 20%、地方公共団体職員 18%、施設職員 16%であった。
(3)に示した日常点検も、定期点検も行っていない施設は、学校が4%、公共が 18%であった。

定期点検内容の質問項目

床面塗装について
1. 床面の滑り具合(滑りすぎる、滑らなさすぎる等)を確認している
2. 塗装面(光沢、磨耗の状態、傷の有無、剝がれの有無など)を確認している
3. その他
4. 床面塗装の確認は行っていない

フローリングについて
5. 傷・割れの有無を確認している
6. 反り・浮き・目違いの有無を確認している
7. 木栓の浮き・抜けの有無を確認している
8. 床鳴りする箇所の有無を確認している
9. 緩み・たわみの有無を確認している
10. ボールが適正に弾むかを確認している
11. その他
12. フローリングの点検は行っていない床金具類について
13. 緩み・浮き・ずれの有無を確認している
14. ネット用の支柱等、体育器具のぐらつきの有無を確認している
15. その他
16. 床金具類の点検は行っていない床下について
17. 水たまり、湿気の有無を確認している
18. かび臭の有無を確認している
19. 支持脚の浮き・曲がりの有無を確認している
20. その他
21. 床下の点検は行っていない
22. 構造上、床下を確認することができない

(5)施設利用者向けルール
施設利用者向けルールに関し、図 25 に示す項目について複数回答で尋ねた結果は以下のとおりであった。
① 何らかのルールを設けているという回答は、学校、公共で共に 98%であった。
② 「使用後に乾拭き(モップ掛け等)を行うよう求めている」と回答した学校は 70%、公共は 79%であった。

(6)体育館フロア 47の保護対策
体育館の木製床を保護するために行っていることに関し、示す項目について複数回答で尋ねた結果は以下のとおりであった。
① 「土足を禁止している」と回答した学校は 97%、公共は 96%であった。
② 他方で、その他の項目(各入口にマットを敷いている、傘類の持ち込みを禁止している、フロアシートを適宜利用している等)について行っていると回答した割合は、学校、公共においては、共にいずれの項目も 50%以下であった。

(7)修理や管理の記録の保管
修理や管理の記録簿等の保管について尋ねた結果は以下のとおりであった。
「竣工以来の全ての修理記録又は関係書類を保管している」と回答した施設は、学校、公共で共に 13%であった。なお、このうち、「体育館床に関わる補修・改修を実施していない」と回答した学校は 67%、公共は 59%であった。
この中で、1986 年以前に竣工された学校は 22%、公共は 23%であった。

4.2.3 危険に関する意識

① 平成 27 年 12 月に文部科学省が発出した体育館の木製床の損傷に起因する負傷事故に関する事務連絡 48を知っているか否かについて尋ねたところ、「知っている」と回答した割合は、学校は 88%、公共は 71%であった。
② 上記の事務連絡の事故と同様の事故が発生する懸念・危惧を感じることがあるかについて尋ねたところ、「ある」と回答した割合は、学校は 55%、公共は 54%であった。
③ ②で「懸念・危惧を感じることがある」と回答したうち「対策を講じたいと思う」と回答した割合は、学校は 93%、公共は 90%であった。
④ 対策を講ずる際の懸案事項について、(ア)対策に費用がかかること、(イ)工事等の対策により体育館が使用できなくなること、の選択肢に加え、(ウ)その他(自由記載形式)、の複数回答で尋ねたところ、(ア)と回答した割合は、学校は 92%、公共は 97%であり、(イ)と回答した割合は、学校は45%、公共は 44%であった。(ウ)では、「体育館が老朽化しているので、何をどのようにやればよいのか分からない。」といった回答があった。

4.2.4 負傷事故の発生

過去5年間に発生した体育館フロアの損傷に起因する負傷について、複数回答で尋ねたところ、学校では「足の裏、手などに、ささくれが刺さった」が4%、「木栓、金具などが原因で負傷した」が2%、「床板が割れたりめくれたりして切り傷、刺し傷等を負った」が2%であった。また、公共では、同2%、1%、1%であった。

4.2.5 アンケート調査の自由記載で得られた回答

アンケート調査において、「安全のために気を付けていること、取り組んでいること」について回答を求めたところ、具体的にみられた回答は次のとおりであった。

安全のために気を付けていること、取り組んでいること
(アンケート調査で具体的にみられた回答)

安全のために気を付けていること、取り組んでいること
(アンケート調査で具体的にみられた回答)
・ポリウレタン樹脂塗料を使用した床の取扱注意事項に従って、施設開放時の利用者とも共通理解をもって運用している。
・フロアにモップをかける時に板のささくれ、割れ、床金具の浮き等に注意しながらかけている。
モップをかけることが一番床の状態を把握できる。
(イ)日常点検、定期点検及び補修に関すること
・毎日、複数名で点検を行い、床面のささくれや床の突起に注意している。
・職員、児童、施設開放団体が異常を発見したら、すぐに管理者に報告し、立入禁止措置をとり、早急に修繕する。
・教育委員会職員が巡回し、不具合の聴き取りを行い修繕している。
(ウ)改修に関すること
・体育教員等と連絡を密にし、学校からの施設修繕依頼があれば優先的に取り組んでいる。
しかし、予算要求が必要で費用がかかるため全面改修が必要な場合でも部分改修にとどまっており、抜本的な改善に取り組む必要がある。
(エ)安全の意識に関すること
・職員への危機管理指導を行い、いつでも事故が起きる可能性を教職員が強く意識し、施設整備面でも危機管理のアンテナを高くしていくことが必要。
・常に生徒の活動のための環境整備を意識し、未然防止に努める。毎月の安全点検を指導し、すぐに修理修繕を行う。

5.結論

体育館の床板の剝離による負傷事故は、被災者が滑り込んだ際に発生していた。
被災者が床板の長手方向に滑り込んだこと、被災者の身体に刺さった木片はいずれも木材の繊維に沿って剝離していたことは、現地調査を行った全ての事故に共通していた。
床板の剝離の要因は、塗膜の損傷・摩耗による木製床の性能の劣化、床板自体の傷、割れ、段差、目隙などの不具合(以下、これらを総称して「床板の不具合」という。)が生じていたことにあると考えられたものの、事故前の床板の状態を示す記録が残されていないこと、事故直前の床板の状態が確認されていないことから、事故時点においてどのような床板の不具合が生じていたのかを確認することはできなかった。
しかしながら、事故の再発防止のためには、(1)床板の不具合を生じさせないこと、(2)床板の不具合が生じた場合には、適切に対処し、事故の発生を未然に防ぐこと、が必要である。
このような観点から、以下では、現地調査及びアンケート調査から判明した、床板の不具合を生じさせた要因及び事故の発生を未然に防ぐことができなかった要因について示す。

5.1 床板の不具合を生じさせた要因

床板の不具合を生じさせた要因として、木製床の使用に伴う劣化のみならず、設計・施工、維持管理及び利用の各段階における床板の過度な水分の吸収やその乾燥の影響(以下「水分の影響」という。)等が考えられる。
木製床の使用に伴う劣化について、事故が発生した体育館のうち、1か所(事例1)は、体育館全面にわたって割れ、段差、目隙などがみられた。
別の1か所(事例3)は、年間を通じて多目的に利用されており、利用時の力の作用などによって床板に不具合が生じる頻度も通常の体育館より多いことが推定され、実際、補修された跡が多数みられた。
2か所とも 20 年以上床の改修を行っていない体育館であった。
木製床の塗膜の耐用年数は 10 年程度であり、その間にポリウレタン樹脂塗料の重ね塗りを行ったり、10 年でサンダー掛け後の再塗装を行ったりするといった計画を立てて改修を行うことにより、木製床の初期の性能を維持することができるとされている。
このため、20 年以上塗装面の改修を行っていない場合には、塗膜の保護機能の劣化によって、床板の不具合が生じると考えられる。

一般に木材は周囲の温湿度の変化に応じて吸湿したり放湿したりし、それに伴って寸法も変化している。
このため、床板においても過度に吸放湿するような環境の下では、床板の変形が大きくなり、段差や割れなどの床板の不具合につながるといわれている。
床板の含水率が適切な範囲から逸脱する要因として、立地環境、空調、維持管理時の水拭き、ワックス掛けなど、様々な状況が考えられる。

事故が発生した1か所では、竣工当初、床面が湿気で濡れているような状態が生じており、その後事故発生までにバレーボール用ネットの支柱固定穴のずれが生じるといった、水分の影響によると考えられる木材の寸法の変化がみられた(事例2)。また、ウレタン塗装によって強く固着されていた床板が水分の影響により変形し、隣り合う床板の長手方向の側面で亀裂が生じたと考えられる事例もあった(事例4)。
維持管理に関しても、水分を持ち込む水拭きやワックス掛けが行われている体育館がみられた。

事故が発生した体育館のうち、水拭き及び洗浄が行われていた体育館が1か所(事例1)、ワックス掛けが行われていた体育館が2か所(事例1及び事例4)あった。アンケート調査では、学校の体育館の 46%、公共の体育
館の 42%でワックス掛けを行っているとの回答があった。
木製床の使用に伴う劣化及び水分以外で、床板の不具合を生じさせた要因として、土砂等の異物、傘の先や金属製の椅子など尖った硬い物、重量物の影響が挙げられる。
アンケート調査では、各入口にマットを敷いている、傘類の持ち込みを禁止している、フロアシートを適宜利用している等の木製床の保護策を行っている体育館は、50%以下であった。

5.2 事故の発生を未然に防ぐことができなかった要因

床板の不具合が生じた場合に、早期に発見し、補修等の処置ができれば、体育館の床板の剝離による負傷事故は未然に防止することができると考えられる。
事故が発生した体育館では、現地調査を行った4か所とも点検はなされていたが、事故を防ぐことができなかった。このことから、有効な点検が行われていなかった可能性が考えられる。
この点について、事故が発生した体育館からの聴き取り及びアンケート調査によると、日常点検の項目、方法、頻度は体育館ごとに異なっており、事故が発生した体育館のみならず、一般に、事故防止に有効な点検が知られていないと考えられる。
また、アンケート調査では、学校の体育館の4%、公共の体育館の 18%が日常点検も定期点検も行っていないとの回答であった。一部の体育館については、そもそも点検の重要性自体が認識されていない可能性が考えられる。
さらに、アンケート調査において、床板の不具合を発見した際の対策に関連する意識や認識を尋ねる項目で、体育館の木製床の損傷等に起因する負傷事故の発生について、同様の事故が発生する懸念・危惧を感じ、対策を講じたいと思って
いるものの、対策の費用や体育館の利用に制限が生じることを懸念する状況がみられた。
このことから、床板の不具合を発見しても対策を講じることができない場合があると考えられる。

6.再発防止策

体育館は、全国各地に建設され、多くの人が、様々なスポーツやその他の行事に頻繁に利用するものである。
そうした様々な利用に対応できる汎用性を考慮し、木製床となっていることが多い。
それは、運動に適した強度と弾力性を持っていること、塗装により適切な滑り抵抗を生み出すことができるためである。

体育館の木製床は、運動やその他の行事等のための絶え間ない使用による劣化が不可避であるため、継続的な維持管理を必要とするものである。
そこで、安全にスポーツを行うためには、設計から利用までの各段階において、水分その他の影響を最小限にして、床板の不具合が生じないようにするとともに、不具合が生じた場合には、適切に対処をすることが必要である。
また、新しい体育館でも事故が発生していることから、同様の事故が発生するリスクは、施設の使用年数にかかわらず、あらゆる木製床の体育館に存在すると考えられる。
そのため、体育館の所有者及び管理者が危機意識をもって対応すること、利用者においても事故発生のリスクを知ることが必要である。
さらに、今後、具体的な再発防止策を検討するためには、体育館の床板の剝離による負傷事故に関する情報を集約することが必要である。

6.1 床板の不具合を生じさせないこと

(1)計画的に改修を行うこと
木製床の使用に伴う劣化は避けられないことや木製床の塗膜の耐用年数が10年程度であることを踏まえ、木製床の劣化を抑制し、木製床の性能をスポーツに適した状態に回復するためには、計画的に改修を行うことが必要である。
体育館の所有者は、利用状況にもよるが、2~3年でポリウレタン樹脂塗料の重ね塗り、10 年で全面サンダー掛け後の再塗装、20 年で床下地を含む床全面取替えといったおおむねの計画を立てる必要がある。日常点検・定期点検により塗膜の光沢の減少などがみられる場合や、専門業者による判断により必要とされた場合には、計画を見直す。また、計画的な改修を行うには、補修、改修の記録の保管が不可欠である。
体育館の建設に当たっては、木製床を現場において塗装することから、体育館の設計・施工業者は、木製床の材質、塗料の種類等の施工に関する詳細な情報に加え、改修時期の目安等の情報及び維持管理の方法を体育館の所有者に確実に伝えることが必要である。

(2)水分の影響を最小限にすること
木材は絶えず周囲の温湿度の変化に応じて吸湿・放湿し、それに伴って寸法も変化している。
空気中からの過度な吸湿や放湿が起こる環境の下では、変形が大きくなり、床板の不具合につながる。床板の不具合を生じさせないためには、設計、施工、維持管理及び利用の各段階において、水分の影響を最小限にすることが必要である。

① 設計者が注意すべき水分の影響
水はけが悪い場所に体育館を建設する場合には、床下の湿度が高くなることを防ぐために、床下の防湿コンクリートの打設、排水溝の設置等について、設計の段階で配慮する必要がある。
また、竣工後の床板の含水率が適切な範囲に保たれるよう、床上及び床下を換気し、湿気が滞留しないよう配慮する必要がある。特に、体育館の床面が地下に設けられる場合や、複合施設の一部として建物の内部に建設される場合など、自然の空気の流れのみでは外気と床上及び床下の換気が上手く行われないことがあると考えられる。
このような場合、強制換気設備等の設置を計画に含めるなど設計の段階で配慮する必要がある。

② 施工者が注意すべき水分の影響
床板はその製造工程で含水率が調整されており、フローリングの日本農林規格においては、工場出荷時の含水率が定められた値以下となるよう規定されている。
したがって、工場出荷後から、使用開始までの間に、床板が過度に吸湿しないよう注意が必要である。
体育館の木製床が現場において塗装されることから、床板の表面は無塗装の状態で工場から出荷されるため、建設現場までの運送時や、現場での保管時には、工場出荷時の含水率が保たれるよう、適切に防水・防湿する必要がある。
また、基礎コンクリートやその他の湿式の施工箇所から放出される水分を床板が吸湿すると、木製床施工後に大きな寸法変化を生じる可能性があると考えられる。
工程には余裕を持ち、木製床施工時及び施工後の室内環境が、通常の使用環境から大きく逸脱しないよう、注意する必要がある。

③ 維持管理及び利用時に注意すべき水分の影響
清掃時においても、水分を持ち込まないことが重要である。このため、清掃の際には原則として水拭きをするべきではない。汚れの除去等何らかの事 情により水拭きをする場合は、固く絞り、木製床に水分が滞留することのないようにすべきである。
ワックス掛けでは、洗浄及びワックスの剝離作業の際に、大量の水を使用するため、水分の木材への影響により床板の不具合につながる可能性がある。
そのため、ウレタン塗装された体育館において、美観の維持やスポーツに適した滑り抵抗の確保のためのワックス掛けは、床板の不具合発生の観点からは、行うべきではない。
既にワックス掛けを行っている体育館においても、以上の観点から、ワックス掛けを中止し、ウレタン塗装を行うための費用や日程等の計画を立てるべきである。
その上で、その日程までにスポーツに適した滑り抵抗を確保するためにやむを得ない場合に限って、ワックス掛けを続けることとすべきである。
その場合には、極力剝離作業を行わず、ワックス掛けに伴う水分の木材への影響を最小限にとどめるよう注意し、床板の不具合を発生させるリスクを低減する必要がある。

また、ほとんどの体育館で行われているとおり、利用後に利用者が汗等をすぐに拭き取るなど、利用時においても水分の影響を最小限とすることが必要である。
床板の含水率を適切な範囲に保つために、体育館の利用の有無にかかわらず、換気が行われるよう注意するとともに、体育館の空調による過度な乾燥にも注意する必要がある。

(3)水分以外の影響を避けること
床板の不具合を生じさせないようにするためには、水分以外にも、床面を傷付けるおそれのある土砂等の異物、体育館以外の床面のワックスや油分の、外部からの持ち込みを避けるため、体育館は土足禁止とし、出入口にマットを敷くことや、傘類の持ち込みを禁止することが必要である。土足で利用する場合や椅子を使用する場合には、木製床の保護のためにフロアシートを敷くことが必要である。
また、重量物の運搬・設置の際には合板を敷くなど、衝撃や傷などに注意する必要がある。

(4)清掃及び利用に関する情報共有
体育館の所有者又は管理者は、「スポーツフロアのメンテナンス」や「フローリング張り標準仕様書」等の書籍を参考にして、適切な清掃の方法を定め、書面にすることにより、実際に清掃を行う者に分かりやすく伝え、実施を徹底すべきである。
さらに、アンケート調査の結果では、学校では、児童・生徒が日常清掃を行う場合が多いことから、具体的に、分かりやすく、適切な清掃の方法を伝えることが必要である。
公共の体育館では、利用者や清掃業者が清掃を行う場合がある。利用者が清掃を行う場合には、学校と同様に、具体的に、分かりやすく、適切な清掃の方法を伝えることが必要である。
清掃業者が行う場合には、業務委託仕様書等に上記書籍を参照するよう条項を盛り込む等の方法が考えられる。
また、所有者又は管理者は、床板の不具合を生じさせないために、施設利用上の注意事項を作成し、体育館の利用者の目に付く場所に掲示するなどして、利用者に対して分かりやすく伝える必要がある。

6 施設利用上の注意事項(例)

1.体育館の利用の際は、体育館の木製床に不具合を生じさせないようにするため、床板への水分の影響を最小限にするよう御協力ください。
○水分補給以外の飲食は御遠慮ください。なお、水分補給は蓋付の飲料としてください。
○汗等はすぐに拭き取ってください。

2.体育館の木製床の保護のため、衝撃や傷などに御注意ください。
○体育館内は、土足禁止です。室内用の運動靴を履いて御利用ください。
○やむを得ず土足で利用する場合や椅子を使用する場合にはフロアシートを敷いてください。
○重量物の運搬・設置の際には合板を敷くなど、衝撃や傷などに御注意ください。
○体育館の木製床にテープを貼る場合、必ず専用のラインテープを貼り、使用後は速やかに剝がしてください。
○傘などの尖った物、硬い物の持ち込みはしないでください。

3.体育館の使用後は、体育館専用のモップで乾拭きをしてください。
○水拭きは避けてください。
○ワックス掛けは避けてください。

4.床板の傷や割れなどを放置すると危険です。床板の傷、割れ等の異常を発見した場合は、係員にお知らせください。

6.2 事故の発生を未然に防ぐこと

(1)有効な点検の方法
体育館の所有者又は管理者は、「スポーツフロアのメンテナンス」等の書籍を参考にして点検記録表を作成し、実際に点検を行う者に点検項目及び方法を具体的に、分かりやすく伝え、有効な点検の実施を徹底すべきである。点検を行う際、塗膜の剝がれや、床板の欠けや割れ、床金具の異常、床下地の状態を確認することや、スポーツ時の滑り抵抗、ボールの弾み等についての確認は重要である。
目視の場合は、担当範囲を定める、又は複数の目で見る、目視だけではなく、ストッキングをかぶせたモップ等を使用する等があり得る。

また、体育館の所有者又は管理者は、体育館の利用者が不具合を発見した際に容易に報告することができる方法を検討すべきである。
例えば、体育館の利用者が備え付けの記入用紙に不具合の位置や箇所数を記入し、体育館の所有者又は管理者に伝達する等の方法が考えられる。
(2)不具合を発見した場合の対処
体育館等の所有者又は管理者が、床板の不具合を把握した場合には、運動時に危険がないよう、テープを貼る等の応急処置や利用禁止の処置をした後、できるだけ速やかに専門業者に相談すべきである。
床板の傷みが激しい場合には、一部の床板の張り替え等の部分補修を行う等の対応が必要となる。

(3)点検記録の保管
体育館の所有者及び管理者は、点検及び体育館の利用者からの情報により、床板の不具合を把握した場合には、不具合の内容に応じた補修又は改修を行い、事故の未然防止に役立てることができるよう、写真を撮影する等の方法で不具合の内容、位置及び箇所数を記録し保管することが必要である。

6.3 その他の再発防止策

(1)体育館の維持管理に関する知識の習得
体育館の維持管理を適切に行うためには、体育館の維持管理に携わる者が必要な知識を有することが必要である。
具体的には、地方公共団体においては、施設管理の担当者に公益財団法人日本体育施設協会が認定している体育施設管理士資格を取得させることが考えられる。
また、公共の体育館においては、上記資格を保有する者がいること等を指定管理者として選定する際の条件とすることが考えられる。

(2)安全管理の責任者の指名
体育館の所有者又は管理者は、体育館の適切な維持管理のために、体育館の維持管理に関する情報を集約させる者として、体育館を含む施設の実務を担う安全管理の責任者を定め、点検の実施や床板の不具合について責任を持って対応に当たらせることが必要である。

6.4 消費者事故等の通知

体育館の床板の剝離による負傷事故が発生した場合には、事後的な検証が可能となるよう、体育館の所有者又は管理者は、事故直後の床板の写真の撮影、発生位置の記録を行うべきである。
体育館の所有者又は管理者は、文部科学省を通じて、消費者事故等の情報を消費者庁長官に通知するとともに、上記の事故直後の床板の写真を添付するなど、詳細な情報提供に努めるべきである。

参考

事故が発生していない体育館における維持管理の例

定期点検が実施され、床の状態が良好に保たれている例を示す。
この体育館では、体育施設管理士等の資格を取得した職員が常駐しており、不具合を発見したらすぐに簡易補修を行うことができるようにする、バレーボールのポールや卓球台等の体育器具の出し入れは職員が行うなどの管理体制をとっている。
また、施設引渡し時に施工業者から注意事項として口頭で説明された「水分厳禁、手入れは乾拭きのみ」の注意点を遵守している。
20年間管理主体が変わっていないので、当初の管理方針が守られ、施工記録も保管されている。
さらに、スポーツでの利用が多く、イベント貸出しはほとんど行われていないため、重量物が搬入される等、スポーツ以外での荷重が作用することは少ない。

① 体育館の概要
階層:複合施設の地下2階
床面積:1,300m²以上
木製床(種類、樹種、工法):単層フローリング、カナダ産メープル、普通張り
床下地:鋼製床下地、組床式
空調設備:床上温度空調あり。床下自然換気。
所有者:地方公共団体
竣工からの年数:20 年 52
塗料:油性1液型ポリウレタン樹脂塗料3回塗り
使用実態等:休館日月2回、稼働率 98%53。

② 維持管理
日常清掃:利用者が使用後にモップで乾拭きを行うほか、毎日清掃業者が午前中にモップで乾拭きを行う。
汚れたモップの洗浄に専用スプレーを用いるが、それ以外に洗浄剤等は使用していない。
特別清掃:なし。ワックス使用もなし。
日常点検:清掃業者による毎日の清掃時、職員による体育器具の出し入れ
時に床の傷等不具合がないか確認。
定期点検:年1回職員全員での点検を行っている(写真 12)。チェックリストは作成していない。
改修:なし(一部床が濡れて変形した部分のみサンダー掛け再塗装)。