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霜鳥 裕達
【資格】2級施工管理技士/1級フローリング技能士/木製床管理者/体育施設管理士/有機溶剤など【仕事】床職人歴20年以上になります。まだ小さかった頃、母親が自分を背中にしょってダボ打ちをしていたそうです。【想い】大切な会社、携わる方と共に成長し、幸せにしていきたいです。またホームページやメールマガジンでより良い情報をお届けします。もっと分かりやすく伝わる記事が書けるよう頑張ります。

数年前までは一般的だった体育館のワックスがけは、現在禁止されているのをご存じでしょうか。ワックスがけは、床材の劣化を招くとして禁止されており、体育館の床には現在、専用のコーティング剤が使われています。従来までは、メンテナンスの一つとして考えられていたワックスがけが禁止されていることで、体育館のメンテナンスをどのようにするべきか悩んでしまっている方も少なくないのではないでしょうか。

 

そこで当記事では、ワックスがけが禁止された背景と、ワックスがけ以外のメンテナンス方法について解説していきます。体育館の床を良好なまま維持するためにも、しっかりと内容を押さえておきましょう。

 

体育館のワックスがけ・水拭きは禁止されている

体育館の床は、水分を吸収すると劣化しやすくなるため、現在、ワックスがけ・水拭きが禁止されています。水拭きは水分を含んでいるのでもちろんのこと、ワックスも一定量の水分を含んでいるため、コーティングが摩耗している部分に塗ったりすると、床材が水分を吸収して劣化スピードを早めてしまうのです。

 

劣化が進むと、滑りやすくなったり、損傷しやすくなってササクレが発生したりします。滑りやササクレは、ケガや事故の原因として考えられており、放置しておくと重大事故に繋がる可能性を秘めています。過去にササクレが原因で重傷を負ってしまった事故もあり、文部科学省は正式に「体育館の床板による負傷事故の防止について」という通知を発表し、ワックスがけと水拭きを禁止しました。

 

体育館床の劣化による事故は10年間で10件

体育館床の劣化が原因で発生した事故は、過去、実際に発生しています。消費者庁の消費者安全調査委員会(消費者事故調)は、運動中に滑り込んだ際、はがれた床板が体に刺さってケガをする事故が、2006~2015年の約10年間で10件起きていたとする報告書を公表しています。

 

事故の内容がひどいケースでは、バレーボールのレシーブ練習中に滑り込み、はがれた床板の一部が腹に刺さって内臓を損傷した事例もありました。このように、体育館床の損傷は重大事故を招く可能性があるため、体育館の管理者はワックスがけをしない・水拭きをしないといったルールを守って、メンテナンスなどの管理業務をしっかりと行なっていくことが求められます。

参照:消費者庁 消費者安全調査委員会「体育館の床から剝離した床板による負傷事故について

 

文部科学省・スポーツ庁による事故再発防止のための通知

文部科学省・スポーツ庁は、前述した実際の重大事故を踏まえ、事故再発防止のための通知をしています。10年間で10件という、決して多くはない事故に対してこのような通知が行われた背景には、体育館の利用頻度や公共性の高さ、そして実際に起きた事故の程度が関係しています。

 

事故再発防止のための通知では、ワックスにおけるメンテナンスやメンテナンス不足、そして点検不足が問題であるとの見解をもとに、適切なフロアの維持管理・運営を行うように示しています。具体的には、適切な清掃の実施、日常点検、定期的な点検の実施、記録の保管および速やかな処置、維持管理を外部委託する際の適切な仕様の設定などが細かく決められています。

 

定期メンテナンスの重要性

以上のように、体育館の床のメンテナンスを怠ると、重大事故を発生させてしまう可能性があることはお分かりいただけたでしょう。このことを踏まえ、メンテナンスの重要性を再確認して、日常点検や定期点検、外部委託による修繕・点検作業などをしっかりと行なっていくことが大切です。

 

また、メンテナンス自体が重大な事故を防ぐのはもちろんのこと、体育館を使用するうえでの環境向上・維持にも繋がる点は、体育館をメンテナンスしていくうえで重要なポイントの一つであるといえます。メンテナンスを定期的に行なうことで、グリップ力の低下を防ぎ、コートラインの摩耗にいち早く気づけるようになり、競技をする環境を良質なものとして維持・管理していくことができるでしょう。

 

体育館床の正しい日常清掃・メンテナンスの方法

事故の防止、競技における良好な環境維持のためには、正しい日常清掃・メンテナンスを行うことが大切です。以下では、自身で行なえる体育館床の日常清掃・メンテナンスの方法をご紹介します。

 

【体育館床の正しい日常清掃・メンテナンスの方法】

  • モップがけ
  • 専用クリーナーorできる限り絞った雑巾での清掃
  • 見つけたささくれなどは即座に応急処置

 

モップがけ

日常清掃の基本は、モップがけです。ワックスがけや水拭きが禁止されているため、清掃メニューの中に水拭きやワックスがけを入れている場合は、すぐにモップがけのメニューに変更しましょう。

 

モップがけのやり方自体は、一般的な使い方と同様です。ただし、体育館の床は、埃・砂・汗・油脂などが付着して汚れているため、毎日モップを使用すれば、その分だけ汚れていきます。そのため、モップは最低でも月に1回は水洗いをして、しっかりと汚れを落としたうえで使用するようにしてください。

 

専用クリーナーorできる限り絞った雑巾での清掃

体育館の汚れは、シューズの摩擦によってこびりつくゴムの焦げ跡などさまざまです。モップがけで処理できるものもあれば、そうでないものもあります。モップで対処できない場合は、専用クリーナーやできる限り絞った雑巾で拭くといった清掃方法が必要となるでしょう。

 

ただし、水拭きは原則禁止とされているので、できる限り専用クリーナーを使って、落ちない部分だけを清掃するようにしてください。専用クリーナーを使う必要がある汚れには、飲料水がこぼれた部分のべたつき、滑りこんだときに床に付着した油脂や血液などが挙げられます。

 

見つけたササクレなどは即座に応急処置

日常清掃をしていく中で、ササクレなどの損傷箇所を見つけた場合には、即座に応急処置をするようにしましょう。すぐに対処しないと、競技をしていく中でプレイヤーがケガをする可能性が高くなります。また、それに比例して重大事故が発生する可能性も高まります。

 

基本的には、専門業者に相談して修復してもらうのがベストですが、見つけた直後にすぐ駆けつけてくれるわけではないので、一時的な応急処置で、業者が来るまでの間をしのぎましょう。具体的には、ポリプロピレン製の幅広テープで塞ぐのが好ましいです。応急処置でガムテープや養生テープのような粘着力が強いテープを使ってしまうと、体育館の床に塗られているコーティング剤が剥がれてしまう可能性があります。

 

メンテナンスで改善しない場合は専門業者に依頼

応急処置の項目でも触れましたが、床板にササクレなどの損傷が発生した場合には、専門業者に修復を必ず依頼しましょう。体育館の床を修復するには、床板をまるごと交換する必要があり、素人では修復ができません。また、床板を変更したあとも、ウレタン塗装をするなど、専門業者にしかできない処理が多くあります。

 

自身でできるところはきっちりと自分で行ない、業者に頼まざるを得ないところは業者に依頼するなどして、メリハリをつけることが大切です。体育館を長期間利用していけるようにするためにも、日々のメンテナンス・修繕はしっかりと行うようにしましょう。

 

まとめ

体育館床のワックスがけ・水拭きは、文部科学省・スポーツ庁の通知によって禁止されています。なぜなら、体育館床の劣化がすすむ原因として、ワックスがけや水拭きにおけるメンテナンスやメンテナンス不足、そして点検不足が挙げられるからです。これらが原因で劣化が進むと、床の損傷が発生しやすくなり、重大な事故を招く可能性が高まります。

 

実際に、2006~2015年の約10年間で10件の事故が発生しており、中にはササクレ部分に飛び込んだ生徒のお腹に床板が突き刺さるといった重大事故が発生しているケースもあります。可能性自体は低くても、一回の事故が大きな問題になってしまう可能性を秘めているため、体育館の管理者は日頃からしっかりと清掃やメンテナンスをすることが大切です