「体育館の床、昔みたいにツヤツヤじゃないけど、今はワックスをかけないの?」
そう疑問に思った方も多いでしょう。
かつては、体育館の床を美しく保つために定期的なワックスがけが行われていました。
しかし、現在では文部科学省によって全国的にワックス使用が禁止されています。
その理由は単なる「掃除の簡略化」ではありません。
ワックスに含まれる水分や化学成分が床材を劣化させ、子どもたちや利用者の命に関わる重大事故を引き起こしたためです。
この記事では、「なぜワックスが禁止されたのか」「文部科学省がどんな経緯で通知を出したのか」、そして「今求められる安全なメンテナンス方法」まで、専門業者の視点から詳しく解説します。
体育館のワックスが禁止された背景と文部科学省の通達
体育館のワックスが正式に禁止されたのは、2017年の文部科学省による通知がきっかけです。
通知のタイトルは「体育館の床板の剥離による負傷事故防止について」。これは、消費者庁の事故調査を受けて出された全国通達であり、全国の学校や自治体、施設管理者に共有されました。
禁止の理由は明確で、ワックスに含まれる水分が床を劣化させ、木片が剥がれて利用者がケガをする事故が多発したためです。
事故の多くは体育館の木製床で起こっており、児童・生徒がスポーツ中にささくれた木片が足に刺さる、あるいは転倒してケガを負うという深刻な事例が報告されています。
この通知以降、全国の学校や公共体育館では「ワックスがけ・水拭きは禁止」が基本方針となりました。
床材が劣化する理由:ワックスに含まれる“水分”の影響
体育館の床の多くは、ブナやナラなどの天然木材を使用しています。
木は生きた素材であり、周囲の湿度に応じて呼吸するように水分を吸収・放出します。
ここで問題となるのが、一般的なワックスに含まれる水分です。
ワックスを塗ると、その水分が床板の内部にしみ込み、木材が膨張します。時間が経つと乾燥して収縮し、この膨張と収縮を繰り返すことで木の繊維が壊れ、表面が反ったり割れたりするのです。
こうした劣化が進むと、床表面がささくれ立ち、スポーツ中にシューズや素足が引っかかりやすくなります。
さらに、剥離した木片が鋭くとがることで、刺傷や転倒事故の危険性が高まります。
見た目をきれいにするためのワックスが、結果的に「命を危険にさらす要因」になってしまったのです。
実際に起きた事故例とその深刻さ
消費者庁の事故調査委員会(消費者安全調査委員会)によると、2006年から2015年の間に少なくとも7件の重大事故が報告されています。
中には、「体育館の床板が剥がれ、鋭利な木片が児童の腹部を刺し、内臓を損傷する」という痛ましい事故もありました。
このような事故は、いずれもワックスや水拭きを繰り返していた体育館で発生しています。
木材が劣化し、表面が剥離した結果、通常では考えられないほど危険な状態になっていたのです。
さらに、事故の中には「ワックスが滑りやすくなり、児童が転倒した」という報告もありました。
これらの実例が、文部科学省の通達を後押しする決定的な要因となりました。
文部科学省が出した正式通知の内容
文部科学省は2017年5月29日、全国の教育委員会・学校関係者宛てに次のような趣旨の通知を出しました。
体育館等の木床については、水拭き及びワックス塗布を行わないようにし、乾拭きを基本とした清掃を実施すること。
つまり、学校施設における**「水分を使う清掃行為」そのものが禁止**されたのです。
この通知は、学校現場だけでなく公共施設や自治体の管理施設にも波及し、全国の体育館で共通ルールとなりました。
ワックス禁止後の清掃とメンテナンスの基本
では、ワックスがけをしない場合、体育館の床はどうやって清掃・管理すれば良いのでしょうか?
文部科学省が推奨しているのは、乾拭きを中心としたメンテナンス方法です。
乾拭きの徹底
体育館の床の表面は、ホコリや砂が原因で滑りやすくなります。
そのため、毎日の使用後には乾いたモップやクロスで床全体を拭き取ることが大切です。
水拭きを避けることで、木材の含水率を一定に保ち、長持ちさせることができます。
汗や液体はその場で拭き取る
スポーツ中に汗や飲み物が床に落ちた場合は、すぐに乾いた布で吸い取るようにしましょう。
水分を放置すると、わずか数時間で木が膨張し、反りや変色の原因になります。
ワックス不要の専用塗装材と最新のメンテナンス剤
現在の体育館床材は、あらかじめ「ワックス不要のコーティング」が施されています。
代表的なのがポリウレタン樹脂塗装で、表面に耐久性と防滑性を持たせる特殊な樹脂層が形成されています。
この塗装により、光沢を維持しながら滑りにくく、傷にも強い構造になっています。
そのため、従来のようにツヤを出すためのワックスを塗る必要がなく、乾拭きだけで十分な美観と安全性を保てるのです。
また、近年では「ノンワックス型メンテナンス剤」も登場しています。
これは水分をほとんど含まず、静電気防止や防滑効果を発揮し、ホコリの再付着を防ぎます。
| 製品名 | 特徴 | 効果 | 使用頻度 |
|---|---|---|---|
| フロアコンディショナー | 水分ゼロ・即乾 | 滑り止め・ホコリ防止 | 月1回 |
| ノンスリップメンテ剤 | 体育館専用処方 | 防滑・抗菌効果 | 2〜3ヶ月に1回 |
| ジムエース | スポーツフロア専用 | グリップ力維持・光沢回復 | 定期メンテナンス時 |
安全な体育館環境を守るために
学校や公共施設で求められているのは、「見た目の美しさ」ではなく「安全性」です。
ワックスを塗ることでツヤを出す時代は終わり、床材を守りながら長く使うためのメンテナンスが重視されています。
もし、体育館の床がすでに劣化している場合や、滑りやすさが気になる場合は、専門業者による点検をおすすめします。
床の反りやひび割れ、塗膜の剥離などは、早期発見・早期修繕が安全維持のカギになります。
まとめ:ワックス禁止は“安全を守るための進化”
体育館でのワックス禁止は、2017年の文部科学省の通達によって全国に広まりました。
その背景には、床の劣化による重大事故という痛ましい現実があります。
これからの体育館管理において大切なのは、
- 水分を使わない清掃
- ワックスを使用しないこと
- 専用メンテナンス剤での安全管理
この3つを守ることです。
「安全で長持ちする体育館の床を維持したい」
その想いに、私たち専門業者が全力で寄り添います。
現場に合わせたメンテナンス計画の提案から施工まで、安全で安心な体育館づくりをサポートいたします。
ワックスをやめることは“手間を減らすこと”ではなく、“人を守る選択”。
これが、文部科学省が下した結論であり、未来の学校施設に求められる新しい基準なのです。

































































































